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10.


――無理だ。
そう、無理なのだ。
例え誰に乞われようとも。
それが、例え雛森であっても。
幾ら考えても流されて、そんな願いを聞き入れられたとは思えない。
実際、そんな機会はこれまでだって幾らもあって。
付き合いで足を運んだ色街の妓楼でだって、女を抱く機会は少なくなかった。
だが、到底そんな気は起こらなかった。
だって必要なかった。女なんて。
誰を愛することもない。
そう云った感情こそを、煩わしいとすら思って厭うていたのだから。
(でも、必要ねえんだよな。そんなもん)
例えば色街の女相手であれば、先ず必要のない感情だ。
劣情を処理するだけなら、むしろそれらの女を相手にした方が、よっぽど煩わしさを感じなかった筈だった。
なのに、敢えて避けた。
世話になろうとも思わなかったのは、偏に既に松本がいたから。
他の誰の誘いを拒んでも、松本に求められたら拒み切れなかったから。
結局は抱いた。
床を共にした。
(ならば、松本と他の女達との違いはなんだ?)
だってきっと誰よりも、面倒で煩わしい女であったことに間違いはない。
雛森の言う通り、一度目はともかく、最悪二度目は阻止だって出来た筈だ。
なのに気持ちに応えることは出来ないと、詫びながらも結局はズルズルと関係をもった。
ばかりか、切れた今もこうして引き摺っている。
素直に松本の『心変わり』を喜べずにいる。
むしろ腹を立て、ひとりむしゃくしゃとしている俺は、いったいあいつをどうしたかったのだろう。
この手のひらからすり抜けて、こぼれ落ちて行った松本の影。
二度と差し伸べられることのない腕。
与えられることのない情愛。
敬愛だけを残して去ってゆく女の後姿に、今また再びギシリと心臓が軋みを上げる。
鷲掴まれたように痛む胸に歪むくちびる。
――ああ、そうだ。
きっと俺は違えていた。
松本が注ぐ愛情の上、胡坐を掻いてずっと見て見ぬ振りを続けて来た。
自分の気持ちに。
心の在りかに。
『壁』などとうに崩されていた。
心の内へと迎え入れていた。
ただ、俺ひとりだけが、何も知らずに傷つけていた。松本のことを。
「…今更過ぎんだろ」
失って初めて気付く、とか。
何と愚かな男だろう。
今になって臍を噛む。
(あいつはもう、別の男を選んだと云うのに…)










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