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9.


「だからね、日番谷くんがそんなんだから乱菊さんに愛想尽かされちゃうんだよ」
好きなら好きってちゃんと伝えなくっちゃ、と。
口にし掛けて傾げた小首。
黒い瞳が、ぐうるり天井を巡ってから、
「あ。そうじゃないのか」
と、小さくごちる。
「なんだよ、急に」
「うん。ちょっと違うのかなあと思って」
「っはあ?だから何の話だよ」
まったく以って理解しがたい。
これ以上俺に何の追い打ちを掛けるつもりだと顰めた眉。
そんな俺の不機嫌ですら意に介さず、困ったように笑って雛森は言った。
「そうだね、日番谷くんはまずは、好きなら好きって認めるところから始めなくっちゃ。そうじゃなかったら、なんにも始まらないでしょ?」
伝えるのはそれからだよ、って。
したり顔で諭されて、意図せず瞠ってしまった瞳。
何と云うか…虚を衝かれた。
…好き?
何を言っているんだ、こいつは。
「ちょっと待て雛森、別に俺はあいつのことなんて…」
「日番谷くん?よもやこの期に及んで何とも思ってないなんて言わないよね?」
にっこり凄味を増した笑顔で念を押されて、ぐっと言葉に詰まる。
さすがに何とも思ってないとまでは言わねえが、だからって…好きっておま。
飛躍し過ぎだろ。
一足飛び過ぎんだろと思うのだが。
そんな俺の無言の抵抗を、察してか更に凄味を増す雛森の黒い笑み。
(つーか、恐ええよ!)
これは、アレだ。まるで卯ノ花だ。
嘗て卯ノ花が生きていた頃、良く浮かべていた無言の圧力を掛けた笑顔そのものじゃねえか。
「…日番谷くん?」
「っはいいっ!?」
しかも声まで恐ええし!…って、ビクッと肩を強張らせたところで雛森が、
「いい加減にしなさいよ、このヘタレがっ!!」
と、酔ってもねえのに暴言を吐く。
(ひひ…雛森いいい!?)
「じゃあ、聞くけど。好きでもないのにしちゃったの?日番谷くんて、そーんな簡単に流されるようなひとだった?そりゃあ、日番谷くんにとっては恩人だろうし元上司でもあるひとだし、今は副官で頭だって上がらないでしょうけど、だからってそんなあっさり流されて、しかも今に至るまで、ずーっと流されっ放しに回数を重ねるっておかしいでしょ。普通じゃないでしょ、どう考えても。しかも乱菊さんに自分以外の男の人の影が見えたら面白くないって拗ねて剥れるって、好きじゃないんならむしろ安堵していいぐらいだと思うんだけど、あたし。むしろ引き摺ってるのって、どう考えても日番谷くんの方だと思うんだけど、それでも何とも思ってないとかどの口が言うか!?ってカンジなんだけど、今あたし」
ねえ、違う?
と言わんばかりの雛森の目力に、生憎反論は何ひとつ言葉にならない。出て来ない。
それを無言の肯定と捉えたものか、尚も雛森の口撃は止まらない。
「だいたい、そんなに押しに弱いって言うんなら、あたしや朽木さん、例えば部下の女の子達におんなじように迫られたとして、…抱ける?床を共にして、朝を一緒に迎えられるの?日番谷くんは」
確信を衝くその問い掛けに、一瞬思案する振りをして。
だがそんなもの、考えるまでもなく答えなら出ていることに臍を噛む。













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あきゅろす。
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