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7.



それらしく口にする、愛の言葉も。称賛も。
俺を乞う言葉すら嘘臭いと思ったのは、偏に流魂街に居た頃に。霊術院に入ってからも、遠巻きにされた。畏怖された。
そんな過去があったゆえだろう。
あの目を…蔑むような、怯えるような。
恐れるような目を忘れることは、恐らく――この先もない。
子ども心に深く刻み込まれた不信は、思う以上に根深かったのだ。
だから自ら壁を作った。
決して誰も立ち入れぬ、強固で頑固で頑なな壁。
心の壁の内側に、唯一置いたのは雛森とばあちゃんのふたりだけだった。
それでいいと思っていた。
そんな俺の強固な壁を、蹴って叩いて揺さぶって、ひびを入れたのが松本だった。
――多分、松本だから一線を越えた。流された。
突っ撥ねることは出来なかったのだ。
以来、乞われれば抱く。
そんな歪な関係が始まった。
尤もその頃の俺はまだガキで。
まだ松本の肩口辺りまでしか身の丈もない、どうしようもない未熟なガキで。
だのにこの手の内に、勝手に落ちてきた女。
転がり込んできやがったのだ、無理やりみてえに。
愛せないことは最初に告げた。
それゆえ、やめておけと諭しもした。
けれど一切合財聞き入れなかったのは松本で。
「知らねえぞ」
「構いませんよ」
最後通牒すらも笑って往なして、垣根を飛び越えて来た。
そうまでして俺を欲した、ただひとりの女。
そうして初めて抱いた女の身体は――松本は、愛なんてないのに容易く俺を陥落させた。
…ああ、他のヤツらがああも足繁く色街へと通い詰める理由はこう云うことか。
やわらかな肌。
あまい泥濘。
組み敷く女の全てを、その身体を。
意のままに蹂躙することのなんたる悦び。
松本が女であることを。
俺が男であることを。
あの夜を境に嫌と云う程には思い知らされた。
だが、だからと言ってそれ以上、松本を心の内に入れようとは思わなかった。
――愛せない。
――愛ではない。
もとより愛するつもりもない。
必要ないのだ、そう云った感情も。想いも。
(どうせ一時の戯れだろう)










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あきゅろす。
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