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4.


以来、望めば与えられるぬくもり。
ほんの一時の情け。
虚しくないわけじゃなかったけれど、それでもどうしても欲しかったから。
傍に居たかった。
寄り添いたかった。
だから望んで乞うた。
切望した。
そうして少しずつ傷付いてゆく。
ばかりか、あのひとの心をも傷付けて。
(ほんと、バカ…)
気付かぬ内に、傷は少しずつ深くなってゆく。
それこそ誤魔化しが効かないぐらい。
やがて致命傷に達するのは明白で。
「いつか、たいちょ自ら必死になれる、そんな女性が現れたらいいですね」
だからそれまではこうしていて。
ぬくもりを求めることを赦して欲しい。
そんな言い訳と身勝手とを盾に、何とか心を守って来た。
これ以上あのひとに囚われることのないように、と。
――でも、もうそろそろ限界なのかもしれない。
結局心は望んでしまう。
期待してしまう。
いつか…いつかは、もしかしたら。
そんなあり得ない、たらればを抱く。
望みをきっぱり捨てきれなくて、結局傷付く、
――ごめんな、って。
あのひとがあたしへと詫びるたび。
どこか申し訳無さ気な顔を見せるたびに。
注いだところで花は咲かない。
何の想いも芽吹かない。
虚しさを思い知らされるばかりだったから…。
(こうなることはわかってたのにね)
それでも、あたしだけは違うんじゃないか。
あのひとの懐の奥底に入れて貰えるんじゃないか。
そんな期待も儚い夢も、所詮は幻。
思い上がりと傲慢でしかなかったんだって、思い知らされてしまったから。
「心、折れちゃった」
笑って小さく吐息する。
と同時に、傍らで身じろぎした身体。
起こしてしまっただろうかと様子を窺うも、どうやら目覚める気配はないことに、ホッと安堵して満ちる静寂。
今日を最後に諦めることを決めたのに。
決めて抱かれたつもりだったのに。
…まだ、こんなにも、離れがたい。
ごめんなって、申し訳無さ気に伏せた昨夜の瞳が思い起こされて、軋む胸の痛みにくちびるを噛む。
(どうせだったら最後くらい、笑った顔が見たかったなあ)
ごめんな、なんて謝られるぐらいなら、どうせだったら「ありがとう」とでも言って欲しかった。
そしたらこんな、無理を強いてる後ろめたさに苛まれることもなかったのに。
もうちょっとだけ、今より気楽な気持ちでこのひとの傍に居れたかもしれない。
罪悪感など抱くことだってなかったかもしれない。
離れようと考えることもなかったのかもしれない、と。
今更ながらにこみ上げてくる恨みごと。
(なんて身勝手な)
――でも、そんな器用な真似の出来ない、無駄に生真面目でズルさを知らない、清廉で真っ直ぐなこのひとだから好きだったのだ。
お前をそう云う目では見れないから、と。
あたし相手にバカ正直に打ち明けてしまう。
心無いままにあたしを抱くことに罪悪感を憶えるこのひとだったから、きっとあたしは恋落ちたのだと思えば最早、ぐうの音も出なくなってしまう。
――結局、どの道こうなることはわかってたのよね。
それでいて尚、無理を強いた。
関係を乞うたあたしにやっぱり非はあった。
(だからやっぱり綺麗さっぱり終わらせなくちゃ)
いい加減このひとを、あたしから解放してあげなくちゃ。
静寂の中、あたしの耳を打つあのひとの寝息。
傍らのぬくもり。
あどけない寝顔。
名残惜しいままにその全てを立ち切りあたしは、その日初めて夜明けを待たずに、そっとあのひとの元を後にした。










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