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2.


広大な砂漠に水を撒く。
決して花は咲かない。
実りもしない。
そもそも芽吹く花木ひとつない。
そんな絶望に苛まれながら、それでもめげずに今日もあたしは水を撒く。
空っぽになったあのひとの心に。
――届く筈もないと知りながら。



元々周囲に無関心なひとではあったのよ。
執着したのは、後にも先にも『家族』だけ。
育ての親であるおばあちゃんと、姉弟も同然に育った幼なじみのあの子だけが、あのひとの空っぽな心を満たしていた。
それは傍目にも明らかで、あたしはほんの少しだけ寂しいことと思いもした。
(だって、周りにあなたを想うひとならたくさんいるのに…)
例えば、うちの隊士達。
隊長格の仲いいひと達。
一護。
織姫。
志波隊長。
それから、勿論あたしもその中のひとりだ。
なのにあのひとはいつだって、大事なひと達とあたし達との間に一線を引く。
どこか無関心な一面を見せる。
…ううん、決して蔑ろにされているってわけじゃないのよ。
頼りにだってされている。
きっと大事に想われてだっている筈だ。
けれど、所詮ベクトルが違う。
比重が違う。
この世に心の重さをはかる天秤があったなら、きっと一目瞭然だったのだろう。
あたし達が幾ら束になってかかったところできっと敵わない、そんな拒絶と隔たりを、否応にも感じ取る。
――疎外感。
あのひとはずっとそれを感じて生きてきたと、昔あたし相手に語ったのだけど。
本当は、あのひとこそが周囲を排除していたんじゃあないのかしら?
周りのひとこそがその疎外感を感じてしまって、否応なしにあのひとを遠巻きにしてきたんじゃあないのかしら、って。
今になってそんなことを考えてしまう。
(いやだ、あたしも随分と意地が悪い)
けれどいい加減卑屈にもなると云うものだ。
これだけ長く傍に居て、未だその懐には入れても貰えない。
心からの笑顔ひとつ見せてはくれない。
幾ら手を伸ばしたところで、届かないのだ。
…そう、いつだって。
あのひととの間には、薄い被膜のようなものを感じる。
それが酷くもどかしい。
だから躍起になって腕を伸ばして、もがいて足掻いて近付こうとして――気付けばあのひとの『心』そのものを欲していた。
(そんなつもりじゃなかったのに)
(こんな筈じゃあなかったのにね)










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