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不毛を絵に描く 1



「愛を乞うとか得意じゃねんだよ」
「あら、そんなザマで女が落ちるとでも?」

小バカにしたように、女が笑う。
赤い紅をひいたくちびるが、弓なりに歪む。弧を描く。
「言葉を惜しんで取りこぼすとか、愚かな男のすることですよ」
欲しいんでしたら、是が非でも希わなくちゃ。
腕を伸ばして必死になって縋らなくちゃ。
そうでなかったら欲しいものなんて手に入らない。
そう言って、女は尚もころころと笑う。
わかったような口を利く。
だが、俺へと諭す傍ら、手を伸ばす。
肌蹴た俺の胸元に、触れる女の細い指先。
小さな爪がくるくると、自身の肌を滑るのに魅入られる。
…言った傍からこれだよ。
「縋って必死に腕を伸ばさなきゃ、女は落ちねえんじゃなかったのか?」
「それは、――そう」
だが、存外あっさり認めて、またわらう。
酷く蠱惑的な頬笑みだった。
「でも。そんなものがなくたって、与えたい女だっているんです。勝手にあなたに落ちるんですよ」
「棚ぼただな」
「ええ、そう。ほーんと面白くない」
とっくに落ちているんだもの、わざわざあなたに乞われるまでもないわ…って、あんまりだな。
あんまりな言い分で以って、俺のくちびるを塞ぐ。舌を絡め取る。
吐息が。
唾液が混ざって、体温が重なる。
俺の肌を這う、白い指先。
「いつか…」
そう口にし掛けて、どこか自嘲混じりに女が謳う。
「いつか、たいちょ自ら必死になれる、そんな素敵なひとが現れたらいいですね」
だからせめてそれまでは、あたしとこうしていて下さいよう、と。
希う女を腕に抱く。


――ごめんな。
ごめんな、松本。


それがお前だったらよかったのに。
是が非でも、と。
俺が望む女がお前だったらよかったのに。
けれどそんな嘘は吐けない。
俺はお前に愛を乞えない。
それでも抗うことは出来ないままに、ただ諾々と肌を重ねる。
お前の想いを受け留める。
注いだところで、決して俺の中には残らない。
ただ流れ落ちてゆくだけの想い。
卑怯にも見て見ぬ振りをして、ただそのやわらかな重みだけを受け留める。











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