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2.



一応四日ほどお休みを貰ってはいるものの、およそ手加減というものを知らないこのコドモは、嬉々として肌へと歯を立てたがる。
しかもタチの悪いことに、そう簡単には消えてはくれない執着の跡を残すのだ。
(いや、嬉しくないわけじゃないんだけども!)
たまの逢瀬だ、好きに抱かせろ…って、そうしたいのはやまやまだけど、そうもいかないお仕事なんですー。
だから予め牽制したと云うのに、これでは努力も水の泡。
あー、ちゃんと消えんのかしら。
(消えなかったらまた怒られるわね)
若しくはまた厄介な噂が立つのは目に見えていて、ほとほと嫌気がさしそうになる。
けれどそんなあたしの鬱屈すらも計算の上だったのだろう、いけしゃあしゃあとよくも言う。
「嫌気がさしたら、さっさと辞めて俺ンとこ来い」
あ、やっぱりそう云う魂胆ですかね。
そんな気はちょっとしてたんだけど。

「えー、やですよう。ごはん、口に合いませんもん」
「日本食の店だってちゃんとあるぞ」
「知ってますー。でもやっぱり本場の味が好きなんですー」
「本場…って、おま」
「だいたいあたし、英語だってしゃべれませんもん」
「…生まれついての金髪碧眼の癖しやがって。ちったあ勉強しろ、勉強」
「えー、それこそやですよ今更」

なあんて文句を垂れつつ、実はこっそりスピードラーニングしてるのはここだけの秘密。
(だって今ここでどう抗ったところで、何れはこのひとに付いて世界中を飛び回ることになるんだしね。うん)
なんたってこのコドモ、日番谷冬獅郎は日本屈指の大企業のご嫡男なので。
いずれは会社を率いる、上に立つ御仁なので。
ま、そうは云っても今はまだまだお子ちゃま。
若干十六歳の若造なのだけど。
そんなこのひとは七つ年下の、あたしの許嫁であったりもする。
(こう見えてもあたしんちも、そこそこ名の知れた資産家…だったりするのよ。やあねえ)
そんなわけで、この子がひとつかふたつになるかならないかの頃から婚姻を決められている、いわゆる政略結婚のお相手と云う間柄だったりするのだ。
――うん。平成のこのご時世によ。
なんって時代錯誤な話と驚くなかれ、事業提携だの何だのと大人の事情ってヤツがあるのです。
とは云えあたしの下にもうひとり、その後年の離れた妹が生まれたことから、別にそっちと婚約を結び直すことだって可能だったのだ。
にも関わらず、その必要はないと言ってあたしとの婚約の継続を望んだのは、他でもないこの子だったから。
…まあ、年の差はあれどそれなりに仲は良好?
家の都合で結ばれた婚約とは云え、生まれてこの方あたしは、このひと以外の男とどうこうなったことなどただの一度もないのである。
(だっからこそ解せないのよねー!)
――さて、ここで話は冒頭へと巻き戻る。
はあ!?
元カレって、あんた誰よ!?
いません。
知りません。
そんなヤツ。
そりゃあね、この美貌だもの。
昔からモテましたけどね、あたし。
ゆえに告白されることも多かったけど、まともに取り合ったこととかなかったから。
カレシいるんでーのひと言で一蹴よ。ええ。
…まあ、そのカレシ様ときたら、七つも年下の当時小学生だったわけですけども。
ちみっ子だったし生意気だし、愛想のかけらもなかったけどさ!
でもでもあたしの前でだけ、ほんのちょっぴり覗く子どもらしさとか、相反する聡明さ、利発なところを可愛いと思った。
「あと九年待て」
俺が十八になったらすぐ結婚すんぞと言ってのけたお子ちゃまに、すっかりと心奪われてしまった次第なのだった。
(年下だけどね!小学生相手なんだけどね!)
でもほら、どうあってもお断りの出来ないコンヤクシャですし?
いずれは夫になるひとなんだし、そりゃあ好意も抱くじゃない?
てゆか、どうせ結婚するんだから、どうせだったら前向きに好きになりたいじゃない。
だってその為にこのひとってば、小学校卒業を機にアメリカに渡って飛び級で進学して、今や大学院卒業も間近と云う有様なのよ。
卒業後は日本に戻って、十八の誕生日を迎えると同時に、あたしと籍を入れる算段でいるのだからして、ほんっっと天才児ってヤツは…。
まだ身長はあたしより十五センチほど低いけれども、今となっては「コドモ」なんて言えなくなった、目の前のオトコの翡翠の眼差しに囚われる。
「見惚れてんなよ」
「んっふっふー。イイ男になったなーって」
薄っすら色付く目元も艶っぽい。
思わずくちびるで触れたくなるぐらいには。
「…あのな。そうやって煽ってんのはどっちだよ」
溜息。
吐息。
恨めしそうにじとりと、さっき跡を残したばかりのあたしの胸のデコルテへと一瞥をくれる。
腹いせのように乳房を鷲掴んでくるのに弛んでしまう頬。
「笑ってんな」
「あい、すみません。可愛くて、つい」
…あ、しまった。
口に出してからマズイことを言ってしまったと口を噤むももう遅い。
「おっ前は…可愛い言うなっつッてんだろが」
だって目の前には、ムッてしかめっ面のあひとが。…うん。
どうやら年下男子の矜持をズタズタにする盛大な地雷を踏み抜いてしまった模様。
「や、あの…ちょ、待っ…!」
「あー、聞こえねえ。つか待てねえ。手加減だってしてやんねえし」
あたしの制止を、くつと笑って一蹴して。
「ぎいいやああああ!!」
上がるは色気もへったくれもない悲鳴。
だけど宣告通り結局は、手加減ひとつも貰えないままに、思う存分ベッドの海で貪られたのは言うまでもない。










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あきゅろす。
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