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11.


そうしてスッカラカンにジュースを飲み干し満足したらしいコドモは、ぴょこんと椅子から飛び降りたかと思うと再び俺の傍へと駆け寄り、膝へと上って腰を下ろす。
俺を背もたれ代わりに寄りかかりながら、上目遣いに俺を眺めては微笑みかける。
(なんつーか、マジでこそばゆいんだが?)
そんな懐き切ったコドモの様子をヘラヘラ眺めては、オッサンの顔もぐだぐだに崩れて最早目も当てられないことになっている。
「いやはや…嬉しそうだねえ、蓮ちゃん」
「うん!だってママが言ってたとおり、蓮のパパ、すっごくすっごくカッコいいんだもん」
「そうかい、そうかい。そりゃあ良かったねえ」
「うん!」
間髪入れずに満面に笑みを浮かべて大きく頷く膝上のちんまいイキモノに、最早俺は言葉もない。
むしろ消えたい。
なんというか…今すぐにでも消え入りたいような会話じゃねえか、コレって?
(つーか、アイツは…テメエの子供相手に何をいちいち吹き込んでんだよ!!)
だがそんな俺の羞恥なんぞは意に介さず、尚もオッサンはコドモを煽る。
おだてる。
口を開かせようとする。
まるで、わざと俺に聞かせるべく。
「ねえ、蓮ちゃん。せっかくだから、『ママから聞いたパパの話』って、いつものアレ。パパにも聞かせてあげたらどうだい?」
「いや、ちょっと待て。別に俺ァ聞きたかねえぞ、ンな話」
「ほらほら、蓮ちゃん。話してあげなよ〜」
「うおーい。俺の話は無視かよ、オッサン」
だが膝上のコドモは、オッサンの話術の前にすっかりコロリとヤラレている。
暢気に「うん、わかったー!」などと言ってる辺り、俺の声など最早耳に届いていそうもない。
(畜生、この辺の子供の転がし方は、明らかにこのオッサンの方がレベルが上だ!)
そうして俺の制止の声など物ともせずに、ちっこい手のひらをめいっぱい開いて、空へと向けて。
ピンと伸ばして言い放つ。
「あのね、背はあんまりおっきくないし生意気だけど、ものすっごおおおおく『おとこまえ』よーって。前に言ってたよ、ママ!」
それに「ぶっ!!」と噴出したのは、無論話を振ったオッサン自身だ。
(この野郎)
だがどうやらコドモの方は、『ものすっごおおおくオトコマエ』のところを強調したかったようで、オッサンの反応に満足そうに胸を張っている。
だがどちらかと云えばオッサンの方は、その反応からして『オトコマエ』のその直前の、『背はあんまり大きくないし生意気だけど』の部分に喰らいついたとしか思えない。
(にゃろう)
いやまあ確かに今も昔もお世辞にも、俺ァ背が高いとは言えねえけどな。
(しょうがねえだろ、チビなんだよ。悪かったな!)
それでも今は辛うじて176はあるんだよ!
あの女よか、ちったあ背だって高くなったんだよ!!
だがそんなみみっちい主張を論じたところで、更なる失笑を買うだけだろう。
そう思って堪えたのだが、膝上のコドモの口は留まるところをまるで知らない。
怒涛のように紡ぎ出す言葉。
それも、悉くタチが悪い。
「あ!あとね、こないだ蓮がテレビ見てたときに、松潤かっこいー!って蓮がいったら、ふーんってかおしてママが、『でもねえ、松潤なんかより蓮のパパの方がずーっとずーっとカッコいいのよー』っていってたの!」
と、極・無邪気な顔で高らかに言われて、これにはさすがに引き攣った。
つーか、むしろドン引いた。
無論、「オイオイ、幾らなんでもそりゃあ大げさ過ぎるだろ。てか、言いすぎだろが。バカみてえに俺へのハードル上げてんじゃねえぞ、この野郎」と思ったからに他ならない。
つーか、…なあ?
張り合うなよ!
てか、張り合わせんなよ!
芸能人と一般人の俺とを、そこで!!
それとも、アレか?
あの女の単なる嫌がらせとかじゃあねえよなあ?
そう思い、項垂れかけたからに他ならない。
挙句。
「うん、うん。それで?実際会ってみて、どうだった?松潤よりもカッコよかったかい?蓮ちゃんのパパ」
…って、オッサンも余計なことを聞くんじゃねえええええ!!!
だが、叫べない。
チビをこの腕に抱いたまま、そのちっこい耳元では迂闊に大声を上げて叫べない。
(うっかり鼓膜でも破れたらと思うと洒落にならないからな)
それでもそんな性格の悪いオッサン相手に、にっこり微笑んで。
「うん、やっぱり松潤よりも蓮のパパのほうがうーんとカッコいい!」
そんな褒め殺しをこうも容易く言ってのけるコイツは、本当に…良く出来たコドモだと思って舌を巻く。
舌を巻いて、驚きついでに見下ろしたなら、自分に良く似た翡翠とカチリと視線が絡まる。
そうしてまあるい瞳で暫し俺を眺めたのち。
「あとね、パパの髪はふあふあでやあらかくって…蓮の髪といっしょだねーって、おふろ出たあとママがわらってた。だけど、きれいなみどりのこの目がいちばんパパにそっくりだって。だから蓮も、パパとおんなじ色をしたこの目がいちばんじまんなの」
ふうわりと。
笑って見上げる瞳には、呆けたように間抜け面を晒した俺が映っている。
そんな俺をオッサンが、苦笑混じりに眺めている。
そんな俺をじいっと見つめて、小さなコドモは手を伸ばす。

「ママね、パパのこといっぱいいっぱい蓮にお話してくれたから、蓮、すぐにわかったよ。…あ!このひとが蓮のパパだ!って。ふわふわの銀色したあたまとみどりの目。ぎゅーっておでこの真ん中にしわがよってて目つきはちょっとおっかないけど、ホントはすっごくやさしいオトコマエ!って、ママがいっつも言ってたもん」

そうして縋りつく。
俺の首へと。
精一杯抱き着いてくる。
小さなからだで。
小さくあたたかな手のひらで。

頬を掠める、ふわふわと揺れるやわらかな金糸。
幼い子供特有の、あまい匂いに鼻腔を擽られる。
と、同時に怒涛の如く湧き上がる感慨。
その、小さなからだの重みに、『命』の重みを身を以って知る。
そしてあの女の抱く、俺へと向けた愛情までも。
この、小さな少女を介して思い知る。
今尚変わることなく注がれていた、俺へと向けられた静かで深い、愛を…情を。






「これでわかったろ?あの子の父親は間違いなく君で、乱菊ちゃんがずっと想っていたのは間違いなく君のことだよ」


追い討ちのようにオッサンにまで諭されて。
うるせえ、知ったような口を利きやがってと心の中で憎まれ口を叩きながらも、うっかり視界が滲みかける。
絆されている。
血を分けた、この、小さな少女のぬくもりに。









気が付くと日乱に松ずんを絡ませている摩訶不思議(笑)←既に2回目;;

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