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3.


早々に成長期を迎えたこっちのオレは、どうやらとんでもねえ女癖の悪リィ男に育ったようなのだ。――オイ。
「ただでさえイケメンなところに、若くして護廷十三隊隊長の肩書でしょ?そりゃあもう、女の子にモテまくりで、あたしなんて端から眼中にもなかったですよう」
あははと笑って教えてくれたのだ、ご丁寧にもこっちの松本が…。
その日こっちのオレは隊首会で午後から席を外していたため、ふたりきり、誘い合って小料理屋へと飯を食いに出かけたのだが、その際松本がまるっと俺に明かしたのである。
ナリが育ち始めて間もなくぐらいから、色街に足を運ぶようになったこと。
その頃辺りから、松本とは距離を置くようになったこと。
今は独りだが、つい最近まで懇意にしていた女がいること。
基本、入れ替わり立ち替わり女が変わる、入れ食い状態であることなどなど…。
(正直『俺』には到底出来ねえ真似だな)
そう思ってとりあえず、それは本当の話かと耳を疑ったのは言うまでもない。
だがどうやら松本は、嘘など吐いていないようだった。
何故ならこの数日の間、時折夜にこっちのオレが、部屋を空けていたことを知っているから。
そう云った日の翌朝は、決まってオレの身体からは、色街の女特有の脂粉の匂いが漂っていた。
「あら、やだ。あっちのたいちょも見かけによらず遊び人なんです?」
「んなわけあるか。…付き合いでな。どうしても足を運ばざるを得ない時があんだよ」
「あらら。それはまた…拗ねられたりとかしないんですかあ、あっちのあたしに」
「ちゃんと断り入れてるし、酒だけ飲んでその日の内に戻るからな。…まあ、悋気もたまになら悪かあねえしな」
「わあ、言いますねえ。ちみっ子のくせにー!」
惚気た俺に、またあははと大口を開けて、笑い飛ばして。
それからうっとりと目を細める。
「あっちのあたしは果報者ですねえ」
「バカ言え。果報者なのは俺の方だ」
あんなかわいい女他にいねえよ――そう俺が嘯けば、途端困ったような顔をする。
「やだ。可愛い…って、たいちょちみっ子のくせに」
「うっせ。俺の前じゃすっげー甘えただぞ、お前」
すぐ抱き着くし、やきもちも焼く。
キスをねだる。
好きだと。
愛していると、事あるごとに口にする。
同じだけ俺にも愛を乞う。
こんなナリも幼い俺相手に。
可愛くもあり、美しくもある。
「早く会いてえよ」
会って、この腕の中に抱き締めてえと小さく零せば、苦笑を浮かべる。
「べた惚れですねえ」
我がことのように頬を染める。
「うん、たいちょはやっぱり別人ですね」
うちのたいちょと全然違うわ、と
笑う松本はどこか寂し気で。
ああもしかしたらこっちの『オレ』と松本は、ただボタンをひとつ掛け違えただけ。
もしかしたら『俺』と松本のように、結ばれた結末――そんな選択肢もあったのかもしれない、と。
思って苦いものがこみ上げた。
(けど、そんな未来はねえんだ。もう)
微笑む松本の左手薬指には、きらきらと輝く指輪が填められている。
来春には籍を入れる予定なのだと、はにかむように口にしていた。
――俺の知らぬ、俺でない男と。
(なあ、てめえはそれでいいのかよ)










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あきゅろす。
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