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10.


自分の与り知らないところで勝手に生まれた子供。
自分の与り知らないところで勝手に子供を産んだ女。

その『存在』を知った今、俺はいったいどうするべきか…どうしたいのか。
どうするつもりでいるのか、を。
だが、問われたところですぐに答えなんて出ない。
そう簡単に出せる筈もない。
それでも今ひとつだけ言えるのは、恐らくアイツは「責任を取れ」とは俺に言わないだろうと云うことだ。
むしろ、あのバカのことだ。
一人勝手に子供を産んだ事実を、この先一生…俺に知られないでいることを望んでいたに違いない。
(そうでなければ、こうも執拗に俺の前から逃げ出そうとする筈もない)
そう考えて、思わず眉間に皺が寄る。
(つか、面白くねえ)
…だって、そうだろ?
あの女、要するに『俺』とまだ見ぬ『子供』とを天秤にかけ、結局ガキの方を選んだのだ。
ガキと二人、生きる道を選んだのだ。
俺に選ばせることもしないままに。
俺の気持ちを無視したままに。
そればかりか、俺に責任を負わせることすらさせなかったのだ。あの女は。
そりゃあ…15のガキの分際で、仮にその事実を打ち明けられたところで動揺しなかったとは思わない。
産んでくれ、と。
言えたとも到底思えない。
だが、仮に産んで欲しいと告げたところで結局は、親や周りが反対したに違いない。
そうなれば、どの道子供は堕ろすことになっただろう。
所詮15のガキでしかない俺に、責任なんぞ果たせる筈もなかっただろう。
だからアイツが黙って俺の前から姿を消したその『理由』だって、わからないでもないのだけれど。
理解出来ないわけでもないけれど。
それでも、俺は…あの時、俺は。
出来ることならあんな形で切り捨てられたくなんてなかったのだ。
そんなちっぽけな存在だっただなんて、思いたくはなかったのだ。
それほどまでに好きだったのだ、松本のことが。
決して認めたくはなかったけれど、6年経った今となっても、忘れ得ぬほどに。…今も、尚。
ゆえに、俺の子供を一人で産んで育てていると知り、驚くと同時に心が震えなかった筈もない。
この、子供が。
アイツの産んだ、俺の血を引く子供なのだと知って、戸惑う以上に驚喜しなかったと言ったら嘘になる。
そうして、吐き出す。軽い溜息。
この『現実』を目の当たりにした、今。
『真実』を知った今。
どうしたいのか…どうするつもりでいるのかなどと問われたところで、『答え』なんざとっくに出ている。決まっている。
――だが、それでも。
今、言えることと云えばただひとつ。
「先ずは松本に会って、…それからだ」
全てはそれからだとしか言いようがない。
何しろ幾ら俺が寄りを戻したいと願ったところで、向こうにその気がないんじゃ話にならねえ。
万が一、惚れた男でもいるってんじゃあ意味がねえ。
だいたいアイツがいきなりこの店辞めたのだって、大本の理由が『男』だったとしたら目も当てられねえことになる。
「だいたい、アイツ。男とかいんのかよ、今?それだったら俺、どの道大人しく引き下がるしかねえんだけど」
色んな意味で色んなものを諦めざるを得ないんだけどと口にしたところでオッサンが、目を丸くしたのち、何とも言えない珍妙な面持ちで以って俺をねめつけた。
「いや、君ねえ…」
何とも苦り切ったような顔をして。
幾らなんでもこの状況でその発想はないんじゃない?とか何とか口にしかけたところを、…だけど。



「ママは『パパがこの世で一番イイ男!』って、いっつも蓮にいってるよー!」




唐突、に。
嬉々として張り上げられたコドモの声に遮られて、目が点になる。






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