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2.


「お前は俺の女だろう!」
開口一番、そう責め立てた俺に松本は驚き、こっちのオレは眉間の皺をより深くした。
「え?やだ、もしかしてそっちのあたしは、その…たいちょとお付き合いしてるんです!?」
やだ、嘘みたい!
そう言ってひとしきり笑った女は、――ああ。確かに俺のよく知る松本と違う。
改めて思い知らされて、納得をした。
(ここは俺の在るべき『世界』じゃねえ)
招かれざる客に他ならない、と。
それに関しちゃ次元だとか世界線だとか、こっちの涅がああこう講釈を垂れちゃあいたが、要はバグが起きた・みてえなもんらしい。
――本来決して交わることのない平行世界が、何の因果か交わってしまった。
干渉を持ったことにより、どうやら俺ひとりがこっちの世界線へと導かれてしまったようなのである。
次元の歪みのようなものは、今現在涅が誠意修正を試みている。
直り次第俺の身体は元の世界線へと戻れる筈だ――とのことだったが、正直どこまで信用するべきか…。
だが今の『俺』に何が出来るわけでなし。
況してや、ひとつの世界線上に俺とオレのふたりはいらない。
こっちとしても、そもそも長居するつもりもない。
帰りたいのだ。どうあっても。
会わねばならぬのだ、どうあっても。
あちらへと残してきてしまった女に。…松本に。
だから今はおとなしく、ここでこちらの涅からの吉報を待つより他はないのだが…。
(っとーに、俺かよこいつ)
この数日で、何度口にしたやもしれない疑問を再び吐息に乗せる。
別に『俺』のことじゃねえから構わねえんだが、どうしてこっちの世界線の『オレ』は松本と付き合ってねんだよ、と。
少なからず疑問に思っていたのだ。
俺の知らない他の男と仲睦まじい松本を見ては、少なからず不服に思っていたのだ。実際のところ。
…いや、わかってる。
あれは『俺』の松本じゃねえ。
だって俺の松本は、まだナリも育ち切らぬ幼い俺を、それでも『男』として好きだと言ってくれた。
微笑んでくれた。
選んでくれた。
他の誰よりも俺のことが好きなのだ、と。
その身を委ねてくれたのだ。
確かに手の掛かる副官ではあるが、同時に愛おしくもある。
唯一無二の存在なのだ。
その松本と、見た目は同じでも別人であるとわかっていながらやはりその実面白くない。
(どうして松本は『オレ』じゃダメだったんだ)
だってこっちのオレは、『俺』にないものを持っている。
どんなに願ってもなかなか訪れなかった成長期だって、随分早くに迎えている。
隣に並んで遜色ない、見劣りしないだけの大人の男としてのナリも得ている。
見目だけなら充分釣り合っている二人ではないか。
(なのに『オレ』じゃダメだったんだな)
そんな不満を詮無いながら、こっちの松本相手に零したことも一度や二度ではなかったのだが…。
(うん。ありゃあねえわ)
マジでねえわ。
――我がことながら、あんな男にこっちの松本はやれん。
最早父親のような心境で、しみじみ思ってしまったのだった。










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あきゅろす。
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