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君のための四つ葉の王冠 1


※『慈愛のうばら』の日番谷サイドとか



――この婚約を破棄できるよう、お前から帝国に働きかけてくれねえか?

などとのたまったあの時の俺は、なんと愚かでバカなガキだったのだろう。
思い起こすに羞恥でのた打ち回りたくなる。
穴掘っていっそ地中深くに埋まりたい気分だ。
そもそも俺は昔から、大層思い込みの激しいガキでもあった。
だから昔から仲の良かった幼なじみとすっかり結婚する気でいたものの、蓋を開けてみれば何のことはない。
「え?あたしだったら、ちゃんと婚約者がいるわよシロちゃん」
にっこり、笑顔で以って窘められた。
どうやら俺が知らずにいただけで、彼女には以前より許婚がおり、輿入れを待つばかりだったのだ。
俺が余りにも王座から遠いところにいた王子だったから、周りに居た誰も俺に興味を持たなかった。
わざわざ教えることもなかっただけ。
ひとり勝手に青写真を描いていた、オロカで哀れなコドモだっただけ。
その人望のなさと言ったら、呆れるよりも他はない。
そんな頭でっかちでオロカな俺の目を覚まさせたのが、王妃となった松本だった。
王太子でもあった兄の元婚約者。
この国の王妃となるべく義務付けられた哀れな女。
おかげで兄の亡くなった今、六つも年下のガキへと嫁ぐ羽目に陥った。
――本当は、年相応に惚れた男もいたらしいのに。
それでもせめて嫁ぐ相手が兄王子であれば、納得いったのかもしれない。
(何しろ兄は俺と違って人当りもよく、気の利く男だったからな)
それが何の因果か流行り病で兄が亡くなり、そのまた下の兄達も皆後を追うように亡くなった。
傷心の余り退位を早めた父王も、王妃と共に離宮へと移り、たったひとり残された俺。
思いがけずに転がり込んできた王座。
ついでのように松本までもが俺の手の内に転がってきた。
「あたしは王妃になる女です」
だから如何な理由があろうとも、婚約破棄など以っての外、と。
嫣然と微笑んで。
帝国の姫として生まれた以上、恋愛はご法度。
国のため、民のために、生きて…死ぬ。
例え意にそぐわない相手であっても、嫁いで妻となれ、と。
そう育てられたのだと断じた女。
――恥じなかったわけがない。
覚悟が違う。
矜持が違う。
適うわけがないのだ、俺如きがそんな女を相手にして。
「愛する者を傍に置きたいのでしたら、側妃としてお迎え下さい。あたしはなーんにも気にしません。むしろ大歓迎ですよう」
にんまり笑ってぬけぬけ抜かした豪胆な女に、端から太刀打ち出来るわけがなかったのだ。

目の上のたんこぶ。
目障りでしかない、兄の元婚約者。

…けれど俺の中にあったそんな評価は、見事なまでに覆された。
むしろ見直していた。
その潔さに、ある種尊敬の念まで抱いたぐらいだ。
(年相応の愛や恋も諦めて、ただ国の駒として生きることを良しとするより他なかった女…)
ならば俺も斯くあろう。
国王としてこの国の頂点に立つ以上、覚悟を持って嫁いでくる彼女だけに我慢を強いるわけにもいくまい。
せめて俺だけは…その覚悟に報いるように。
俺も王妃となる松本のために尽くそう。
已む無い事情でも起こらない限り、傍に置くのは生涯『正妃』ただひとりでいいと、心に誓ったのも多分この時のことだった。












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あきゅろす。
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