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5.

あれから程なく。
恙なくおーさまとの婚姻の儀を執り行ったあたしは、無事この国の王妃となって久しい。
さすがにあれだけ言えば何の文句もないだろうなと思ってたけど、あの日の『脅し』はどうやら、予想以上の絶大な効果を及ぼしたらしく、今日に至るまでまだあのひとが側妃を迎え入れる素振りはない。
件の伯爵令嬢もねー、あたしとおーさまの婚姻を前に、ひと足先に侯爵家へと嫁いでしまっていたから、まあ…しょうがないっちゃあしょうがないのかもしれないけれど。
(んー…、でも正直別にあたしとしても、そこまで縛り付ける気はないのよねえ)
何しろこの五年の間に、二男一女の子宝にだって恵まれた。
おーさまはなかなかに立派な王様で、混乱もなく国を纏め上げている。
ばかりか、父親としてもなかなかに子煩悩なところがあって、家族仲も概ね良好。
以前のツンケンぶりが嘘のように、あたしにもやさしく接してくれる。
――だから、まあ。
そろそろいいんじゃないかと思ったわけで。
初恋の令嬢はお嫁に行ってしまったけれど、おーさま好みの清純可愛い女の子なんて他に幾らもいるんだし、実際側妃を娶る勧めもちらほらとあるようなので…。
(まあ、確かに六つも年嵩のあたしじゃそろそろ、子ども産むにも限界だしね?)

「おーさま?前にも言いましたけど、あたし別に側妃のひとりやふたり迎えたところで、文句言ったりはしませんよー」

生まれて間もない王女におっぱいをあげながら、それとなーく切り出してみた次第。




*
*

「……は?」

そしたらおーさま、きょとんとばかりに目を丸くして。
挙句、ものすっっごいしかめっ面でこっちを睨み付けてくるではないか。
(あ。もしかして件の伯爵令嬢のこと、まだ引き摺ってる?根に持ってたりしますかね)
まあ、確かに彼女の輿入れが明らかになった際にはちょっと…いや目に見えて凹んでましたもんねえ。
さすがにあれは憐れみが過ぎて、さしものあたしも何にも言えなかったわよ。うん。
せめてもと思って、それとはわからずに精いっぱい慰めた次第よ。
――うん、だからね。
せめて気に入る側妃ぐらい、自由にさせてあげようかなって思ったの。
例えそれが平民であっても。
貴族であっても。
あたしより若かろうと年上だろうと、あのひとの目に止まったのなら何も言うまい。
そう思っていたわけだけど。
心に決めてたわけなんだけど。
(なんっっでそんな顔されてんですかね、今あたし)
怒ってる?
呆れてる?
(てゆーか、泣きそう?)
ちょっぴり涙目のおーさまは、「…マジかよ」と。
力なく零すと、目に見えて大きな溜息を吐く。
「側妃なんていらねえよ、あほ!」
そうして叫んだものだから、おっぱい飲んでた赤ちゃんが腕の中でびくって震えましたよ。
ちょっと、おーさま!









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