[携帯モード] [URL送信]
3.


帝国から押し付けられた皇女たるあたしを袖にした挙句、王妃教育も何も受けていない、自国の伯爵令嬢如きを王妃に据えたりなんてした日には、帝国に対する宣戦布告と受け取られかねないのは自明の理。
百年に一度の天才児とまで呼ばれたおーさまでしたら、それがわからないわけがないですよね、あーよかった。
でも、ならどうして今更こんな風に婚約をなかったことにしたいなんて駄々を捏ねているのかしら。
あたしが六つも年上だから?
ちょっとキツめの派手な顔立ちをしてるから?
おーさま好みの清純からは程遠い、肉感的な身体付きの女だから?
それともこの性格だったりする?
黒薔薇。
毒薔薇。
毒婦と呼ばれる女だからなのかしら。
それとも、兄王子のお下がりなことが気に入らなかったりします?
何もかもが気に入らない、その最たるがあたしだったりするのかしら?
…まあ、気持ちはわからないでもないんだけど。
じっと見据えた先ではおーさまが、実に居心地悪げに湯呑みを手に取る。
熱いお茶を、ずと啜る。
――このひと、は。
若き賢王なんて持てはやされているけれど、その実周りのことなんて何も見えてない、あたしのこともこの婚姻の本質すらも、まるっきりわかっていない。
所詮はオロカなコドモなのだわと改めて思う。
(何もかもを投げ出したいのなんて、むしろあたしの方だっつーの!)
そんな剣呑なあたしの様子に気付いたのだろう、どこか訝し気にあたしを見据える翡翠の双眸。
そのお綺麗な顔に、手にした扇を投げつけてやりたいような衝動に駆られたのはここだけの話だ。
「つーかお前、なんか…すっげ怒ってね?」
「怒ってません。てゆーかむしろ呆れてます」
なんて、嘘ですけどね。
半分は嘘ですけどね、ええ当然です。
呆れてますし、怒ってもいます。当然です。
それどころか、半ば愛想も尽かしかけておりますが、何か?
だから殊更にっこりと笑い、意地悪くも目の前のコドモに、自分がどれだけオロカで傲慢なコドモであるかをわかるように諭してあげることにする。

「…ねえ、おーさま?王様はよろしいじゃないですか。例えどんなに気に入らない女を王妃に迎えようとも、それとは別に、慰めにと好きな娘を側妃として迎え入れることも出来ますし、その権利だってあるんですもの。仮に、戯れに侍女に手を付けることだって許される。むしろ手駒とも呼べる子種を残すことを推奨されているんですもの」

だからいつまでもごちゃごちゃ言ってんじゃないわよと言わんばかりに、「ね?」と念押せば、途端気色ばむ。
勢い込んで席を立ち上がりかけたところで、テーブルにバシリと扇を叩き付けてやる。
「その点女なんて憐れなものです。男性には許される愛妾を持つことすらも許されない。仮に想いを寄せる相手がいたところで、『家』の為『国』の為の婚姻を、貴族だから皇族だからと強要されるばかり。ええ、手駒でしかないんです所詮。…ねえ、おーさま。よもやこの年になるまであたしに好いた男のひとりもいなかったとお思いですか?帝国の為、民衆の為、自分を殺して犠牲となるのが本当に、おーさまだけだとお思いですか?」
決して微笑みだけは絶やさずに、畳み掛けるように問い詰めたなら、ようやっと言わんとするところを察したのだろう。
ハッと我に返ったように目を瞠る。
あたしを前に、言葉を失くして固まるおーさまに、やっとのことで溜飲が下がったのは言うまでもない。










[*前へ][次へ#]

4/10ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!