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王妃の憂鬱 1



「あー…、婚約のことだが、お前の方から何とかなかったことに出来ねえか?」

苦々しげに切り出したこのひとは、いったい何をほざいていやがるんでしょうね。
「あらあら。まっこと残念ではありますが、それは無理な相談ですわ、おーさま」
だからにっこり笑って拒否をしてやれば、途端唖然とあたしを見やる。
(よもや即答で断られるとは思ってもみなかったってところかしら?)
そんなところはとっても浅はか。年相応。
キレ者。
天才児と称賛される普段の姿からは、およそ程遠い。
「なっ…けどお前、俺は他に」
「他に気になるご令嬢がいらっしゃるんですよね。ええ、ええ、存じておりますとも。とおおぜんです」
無粋を承知で遮るように口にして、これ見よがしにころころと笑って見せれば、再び舌打ち。
ギロリとばかりにねめつけられるも、あたしにとってはどこ吹く風だ。
澄ました顔を崩さぬままに、手にした紅茶をひと口含む。…うん、おいし。
と云うか、そもそもが有名な話なのだ。
若き国王が想いを馳せる、幼馴染の伯爵令嬢のことならば。
年はひとつ上。
愛らしい顔立ち。
天真爛漫を絵に描いたような彼女のことをこのおーさまが、昔から大切に想っていることなど…。
この王宮で知らぬものなどいないでしょうとも。
けれどもこれは、契約であり政略と云う思惑の上に成り立つ婚姻なのだ。
そう簡単に破棄が許されるわけがない。
「そりゃあ、ご自分よりも六つも年嵩の、こーんな派手な顔した肉感的な女なんて、清純好きのおーさまにしたら不服でしかないでしょうけれど。これでもあたし、一応『帝国の毒薔薇』と称えられている美姫なんですからね」
「っど、毒薔薇はどう考えても称賛じゃねえだろ!」
あほか!と一喝したかと思えば、ガクリとその場に項垂れる。
やわらかな銀糸がさらりと揺れて、淡く輝く。
「ほんと、何で俺なんだよ…」
あらあら、弱音なんてらしくもない。
「さあ?こればっかりは運が悪かったとしか」
何しろ元々おーさまは、身分の低い側室の母を持つ第五王子と、王位継承権からは比較的遠く離れた存在だった。
それが今こうして若き王として君臨しているのは、偏に――たまたま?
たまたまおーさま以外のご兄弟すべてが流行り病に罹られて、次々とその命を落とすことになったから。
それにショックを受けた前王様と王妃様も、追従するように体調を崩し、唯一生き延びられた第五王子へと王位を明け渡すと、今は王妃様諸共離宮へと移られてしまったのだった。
王位争いからは最も遠いところにいた第五王子にしてみれば、それはまさに青天の霹靂。
と云うよりむしろ、天災以外の何ものでもなかったに違いない。
(なんたって、王位と一緒にもれなく、あたしみたいな女までもが転がり込んで来たんだものね)









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