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13.


なのでぐいと肩を押し戻そうとすれば、「待て待て!そりゃあそん時の話だ!」と。
慌てた様子であたしの背中を抱き返す。
「っだいたいお前、俺よかふたつも年上だったし背だって俺よか高けえし派手だし取り巻きの男共だって凄かったし、その癖やたらと俺に構ってくるしちょっかい出すしからかうし、わけわっかんねえだろ。そんなすぐ好意なんて抱けるかよ!」
むしろ迷惑だった…って。
バッサリ斬られて最早、息の根が止まる寸前だったのは言うまでもない。
そんな青ざめたあたしの様子に気付いているのかいないのか、だからあたしと付き合ったのだって渋々だったしどうせすぐ飽きて別の男に乗り換えるだろぐらいの勢いだったと明かすではないか。
(わー!知ってた!知ってたけども!!)
あたしの怒涛のアプローチに折れただけ。
所詮嫌々応じてくれただけなのも知ってましたよ。当然ですよ。
だけど知ってただけなのと、いざ本人の口から聞かされるのとでは、衝撃としては天と地ほどもの大きな差がある。
つまりは胸にくるのです。
痛い。
あーすっごい痛いわー。
そんなつもりじゃなかったんだけど、やっぱりすんごい迷惑だったんだなあとしおしおと項垂れる。
…これ、やっぱり別れたいってことなんじゃないの?
好きだとか言ってくれちゃったけど、もしや一周回って遠回しなお別れの言葉だったりする?
とどめ刺しに掛かられてますかね、今あたし。
いい加減遠く意識が遠のきかけたその時のことだ。
「だから適当に往なしてさっさと飽きてくれりゃあいいと思ってた」
…なんてズバッと言っちゃう辺り、ほんっっと容赦ないよ、この男!
鬼だ。
鬼畜だ。
ドSだー!
最早HPはゼロにも等しいあたしだったのだけど。
何を言い返す気力すらもなかったのだけど。…だけれども。

「けどお前、全然飽きる様子とかねえし、喜んでるし。抱き着いてくるし、好き好きうるせえし。俺以外の男なんざ歯牙にもかけねえし。況してやもっと遊び馴れてんのかと思いきやそんなんじゃねえし、やたら前向きで俺の隣で笑ってるし。それも、すっげえ幸せそうに笑ってるし。俺に尽くすし甘えるし、なんかすっげえ…可愛いし。俺には勿体無いぐらいのイイ女だしで、ンなもん絆されるに決まってんだろが。何とも思ってなくとも好きになるに決まってんだろが!」

だからつまんねえ勘違いして今更俺を振るんじゃねえ!!…って、ほんっっとすっごい勝手。
「うっ、腕も組んでくれないくせにっ」
「しょうがねえだろ、苦手なんだよ人前でべたべたすんの。あと、胸が当たんだよ。つか埋もれんだよ!」
ついでに周りにからかわれんのもクッソ照れ臭せえ…って言われた。
「だいたい、そう云うのは部屋ン中でしろ!」
…って、なんだそれ。
でもよくよく考えたら、人目のないとこでべたべたしても、腕とか無理やり振り解かれたことってなかったかも?
だから思いつくまま、これまで抱いた不安と不満とを更に連ねてみる。
「しかめっつら」
「顔がニヤケんのを堪えてただけだ」
「は?なにそれ、むっつり?」
「うっせえよ」
悪かったな、って舌を打つ。
存外あっさり認めたことに目を丸くする。
(ま、まあ…言われてみれば、なんだかんだでちゃんと致してたし?)
初めてだってあたしが貰ったし、決して積極的ではなかったけれど、誘えばちゃんと応じてくれたし。
嫌そうではなかったかも、と。
思い起こしてはニヤけそうになる口元を、慌てて咳払いで誤魔化す。
「で、まだあんのかよ?」
ちょっと苛立たしげに急かされるけど、照れ隠しなのはわかっているから「まあ待ってよ」と片手で制して小首を傾げる。
うーん、他にはなんだろ…。
「あ、好きって言われたことないし!」
「っ!……そ、れは。…悪リィ」
よっぽど予想外だったのか、はたまた思い当たる節があり過ぎたのか、これにはさすがにばつが悪そうに口ごもってしまった日番谷は、――けれど。
「ッけど、ほんとに嫌だったら抱いたりしねえ。ンな無責任なこと出来ねえし、惚れてもない女相手にキスだって無理だ!」
そもそも面倒臭せえから拒むし逃げる、だ・そーで。
ちょっと逡巡してしまった。


「…じゃあ、もしかして。『あの時』にはもう絆されてくれてたの?」










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あきゅろす。
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