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12.


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「あと、井上のことはマジで誤解だ。俺にそんなつもりは微塵もねえぞ」
ちょっと怒ったみたいに口にした名前。
「いの…うえ?」
「おー。さっきのヤツな」
ちなみに井上織姫ってんだが…って。
ちょっとちょっと、なんか豪く親しげじゃない?
ほんとに違うの?
(うっそくっさー)
ちょっぴり疑いの眼差しで、じとんと半目にねめつけたのに気が付いたのか。
「いって…!つか、爪立てんな、背中!」
はたまた意図せず背中に爪を立てていたことで察したものか、そうじゃねえよと溜息を吐く。
「あー…、井上はだな。俺と黒崎の、高校ン時のクラスメートだったんだよ」
その頃からのツレだったのだと打ち明けられて、きょとんと瞬きをひとつ。
「え。そうなの?」
「おー。まあな」
聞けばその黒崎某くんとやらは、高校在学中からその井上某さんに淡い想いを抱いていたらしい。
(わあ、甘酸っぱい!)
更にはその井上某さんとやらも、どうやら黒崎某くんのことを高校の時から好きだったようで。
何ともじれったい両片想いの膠着状態にあったらしいのだ。
「で、まあいい加減はっきりさせろ!って、阿散井…まあ、こいつも高校ン時のツレのひとりなんだが、それにケツ叩かれてな。とうとう腹括って告白したってわけだ」
「そ、そうなの?」
うーん、わかったようなわからんような?
でもだってそれじゃあなんだってあんな顔で日番谷は、あの時あの子を見つめていたんだろう。

焦がれるような眼差しだった。
あの子だけを見つめていた。

…それこそあたしがすぐ傍で、日番谷のことを見ていたことにも気付かないぐらい。
胸の内へと巣食う疑念。
やっぱり無意識にでもその子のことを好きだったじゃあないのかしらと思って唇を噤む。
だけど日番谷は、やっぱりあたしの疑念を「それだけはねえ」ときっぱり否定したのだった。
「まあ、ツレだし。黒崎の好きなヤツだし、何よりあいつは見たまんまのすげえ天然だからな。変なヤツに絡まれることも多いし、構内で見かけりゃ気にして目で追うぐらいのこたあしたかもしれんが、俺が井上をどうこうってのはぜってえねえ」
先ずあり得ねえとまで断言されてしまえば、あたしの見間違い?勘違い?
無理やりにでも飲み込んで引き下がるよりも他はなく。
こんな時ばっかり強気に打って出る日番谷を、ほんの少しだけ恨めしくも思う。
「つーか、それに関しちゃ俺だって心外だ。どんな分厚いフィルター掛けたらンな風に見えんだよ」
あくまであの子は日番谷にとって、高校の時からよく知る友人のひとりであって、今となっては友人の彼女と云う認識でしかないらしい。

「…オッパイおっきーのに?」
「お前だってでけえだろうが」
「タイプじゃないって言った」
「ぐっ…。それは…だ、しょうがねえだろ。これまで周りにいないタイプだったわけだし…」

ちょっと目をうろうろさせながら、ごにょごにょ言い訳を口にする。
うん。否定はしないんだ、そこ。
ちょっとざっくり抉られましたよ。
(まあ、でも確かにそうなのかもしれない)
だってこの子、あたしと付き合うようになる前に、別に好きな子いたもんねえ?
雰囲気だけは井上某ちゃんとやらに良く似た、守ってあげたい系の可愛い子。
ああ云う子がタイプでしたね、そう云えば。









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あきゅろす。
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