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9.



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「わー!わわわ、待って。ちょっと落ち着こうか、日番谷!」
「つーか、落ち着くのはお前の方だ。てか、暴れんな」
あたしの制止も意に介さず、聞く耳持たずと云った態度でするすると、ニットの裾から入り込んでくる硬い手のひらに身をよじる。
と同時に、ギシリと音を立てるベッドのスプリング。
(わあわあ、何でいきなりこうなってるしー!?)
やや、吝かではないけれど。
日番谷とするのに異存はないのだけれど。
だけどちょっと落ち着こうか?
こんな部屋に入って早々盛るとか、想定外もいいとこだ。
(だってこう云う場面はいっつも、あたしの方から仕掛けてたしー!)
抱き着いてみたり、ちゅーを迫ってみたり。
べたべたいちゃいちゃ仕掛けてやっと、手が伸ばされる。ベッドに沈む。
そんな流れだった筈ですがー!?
それがなんで圧し掛かってきてんの?
しかも、ノリノリ?
…アレ?おかしいな。
だってあたし、化粧もまだ落としてないし。
リップ、付いちゃう。
色移っちゃうし。
くちびるべたべたするのだってキライでしょーが。
そもそもあんた、他にいいなと思う子がいたんでしょ?
なのに何で今日に限って盛ってんのよ。バッカじゃないの。
てゆーかよもや、好きな子を友達に取られたショックで自暴自棄?
手っ取り早く、あたしで憂さ晴らしとかだったらさすがにちょっと泣ける。
てゆーか、泣いてた。もうすでに。
「ッオイ!?」
ちょ、待て。
何でいきなり泣いてんだ、お前!?
――そんな慌てた様子の日番谷の顔が、薄らぼんやり滲んでゆくのに気が付いて。
声を押し殺すように、うううと呻く。
えぐえぐと泣き出すあたしを前に日番谷は、酷く途方に暮れているようだった。
「つーか、何だよ。そんなやなのか?お前、本気で俺と別れてえのかよ」
問われてちょっとの間逡巡したのは、一概にうんとも違うとも言えなかったから。
(てゆーか、一気にふたつも質問するとか卑怯よあんた)

別れたくはない。
でも、あの子がダメだからとりあえずあたしで――っていうのは嫌だ。
無理だ。
冗談じゃない。
それは…違うもの。









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あきゅろす。
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