4. 「恋、だった。いや、或いはあれは愛だった。――否、そのどれでもなくて、どれでもあるんだ。もう、そう言った次元の話じゃねえんだよ、俺があいつへと抱く感情は。半身がもぎ取られたみてえに辛いよ、今は。…ずっと、見て見ぬ振りをしてたんだ。その癖大事だったんだ、あいつのことが。誰よりも」 もっと早く、ちゃんと伝えていれば良かった、と。 尚も悔いる俺の言葉に、どこかホッと安堵したように。 強張る肩を緩めて伊勢が流した涙。 「――でしたら、今度はちゃんと伝えてあげて下さい」 どうか金輪際、あのひとを泣かすような真似は謹んで下さい。 涙混じりの声で静かに叱責されて、ぐさりぐさりとまた突き刺さる。 やはり泣かせていたのか、と。 後悔ばかりがこみ上げてくる。 見舞ったばかりの女の元へとすぐにも駆け出したくもなる。 …けど。 そうはいかない。 今は堪えなくてはならない。 何故なら今し方俺の元へと、十二番隊から呼び出しが掛かったのだ。 待ちに待ち詫びた、涅からの朗報。 未だ目覚めぬ松本の、失われた魂魄の行方を掴んだとの報せを受けているのだ。 「すまない、伊勢。暫くの間俺の代わりに松本を頼む」 「はい。お任せ下さい」 キッとばかりに告げられた言葉に短く頷いて見せて、四番隊舎を後にする。 ――待ってろ、松本。今、助ける。 今、改めて誓う。 失わせない。 失いはしない。 何としても取り戻すのだ。この手の中に。 end. 随分前にブログに書き掛け放置していた雰囲気コネタを完成させてみた次第。 一応これ、『屍向こうの虹を探して』の前日譚的な感じで書いてたんですが、なんかもう途中で「別にあのふたりでなくてもいいかな〜?」って思っちゃいまして^^; バカップルのちょっとしたすれ違い前日譚として読んで頂いても、まったく関係ない独立したお話として読んで貰っても大丈夫かと…。 時間経つと「あれ、なんか違う」…ってなるのってよくあるよ、ね…?;(いや、ない)なんかもうぐだぐだですんません;; お題:まよい庭火様 [*前へ] [戻る] |