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2.


あいつが居なくなって程なく、しつこいほどに付き纏われて、折れるように付き合うことに応じただけの女であった。
尤も、付き合うと云っても何をしたわけでもない。
そもそも俺から望んで欲した女でもないのだ。
呼び出しに応じはするが、俺から逢瀬を求めることもない。会話ひとつ弾まない。
それまで何の感情を抱くこともなかった相手だったが、料亭の離れでいざ床を使う段になり、懐から零れ落ちたその巾着へと女が目を光らせた。
俺が手を伸ばすより先に取り上げられてしまったその巾着の中を見て、恐らくすぐにも察したのだろう。
いやだ、形見みたい・と。
あなた、随分と女々しいのね、と。
口元を歪めて醜くも笑った女に、一瞬にしてこみ上げた怒り。
苛立ち。
憤り。
ようやっと目が覚めた気がした。



「あいつは…死んでなんかいねえ!!」



茶番は終わりだ、と。
突き放すように言い置いて、青ざめる女ひとりをその場に残して見世を後にして以降、その手の誘いに一切応じることをやめた。
そもそもからしてこのナリだ、どうしても今、女が必要だったわけじゃねえ。
仮に付き合うことに応じたところで、正直あの女と床を共にするようなつもりは俺に微塵もなく、むしろ事あるごとに向こうの方がやたら積極的に迫って来るのに辟易していた。
その気になれる筈もなかったのだが、いい加減抗うのも往なすのも面倒になっての自棄っぱちで応じただけのこと。
(てめえ如きが相手じゃどうせ、使いモンになんてならねえよ)
自分の身体のことぐらい、自分が一番良く知っている。
少なくともこの女に何をされようと迫られようと、その気にならないだろうことは明白で。
況してや今、こんな時に、こんな女を相手に憂さを晴らそうなんて考えられる筈もなく。
だから身を以って思い知ればいいとさえ思っていた。
――尤もこの時、嫌ってほどに思い知らされたのは俺の方だった。
結局俺が自ら手を伸ばし、触れたいと。
抱きたいと。
傍に居て欲しいと願った女はただひとり。
…松本だけだ、と。
痛いぐらいに思い知らされた。
今どうしようもなく抱き締めたいのに、抱けないことが歯痒かった。









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