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あなたに幸福の名をあげたかった 1


※いつぞやにブログ投下した駄文のふたりとか。
いろいろと妄想・捏造激しい大人日乱に付き要注意☆





「ご存知でしたか、たいちょ。今日は『愛妻の日』なんですって」
「初耳だな。つーか、俺には無縁な話だ」


自嘲混じりに口にして、組み敷くあたしのくちびるを塞ぐ。
深く舌を絡ませる。
…愛妻の日、なんて。
頃合わせもいいところ。
(いったい誰が考え付くのかしらね、そーゆーのって)
微かに脳裏を過ぎった、今はもう朧な『女』の横顔に。
ほんの僅か、胸に影を落とした罪悪感。
けれどすぐにも霧散してしまう。
触れられて。
痕を残されて。
ひと度下肢を穿たれてしまえば、最早目の前の男のことしか考えられなくなってしまうから。
――愛妻の日だと云うのに、妻とは違う女を抱く男。
不実であるし、不誠実であると、事情を知らないひとなら眉を顰めてしまいそうだけど、そもそもあたしもこのひとも、こんな風に道ならぬ道を選ぶつもりなど微塵もなかった。
いつかの朽木と恋次のように、ちゃんと籍を入れて、夫婦として。
ずっと添うて生きて行くつもりだったのだ。
けれどそんなささやかな夢は、呆気ないほど見るも無残に打ち砕かれた。
――他のおんなのものとなるより他無くなってしまったから。
無理やりのように分かたれた未来。
あたしもたいちょも、望んでなんていなかった。
別の誰かの手を取り籍を入れ、別々の道を歩んで行くことなんて…。
(もう、今更だけど)
否応なしに他の女との縁を繋がれてしまったこのひとは、けれどその心まで明け渡すことは良しとしなかった。


「わかった。なら、日番谷と云う名だけはくれてやる。――だが、俺があんたを妻と見做すことはない。俺はあんたを抱かない。この家にだって戻らない。顔を見るようなこともない。俺が『妻』と見做して、生涯傍に置くのは松本だけだ」


そうであれば好きにしろ。
どうとでもすれば良いとの条件付きで為された婚姻。
以来このひとはその言葉を違えることなく毎日毎晩、仕事上がりにはあたしの部屋へと戻り、あたしの作る手料理を食べ、あたしと共に就寝までの一時を過ごす。
飽くまであたしを抱いて、ひとつ布団で共に眠って朝を迎える。
誰に憚ることなく、共に隊舎へと出向く日々を繰り返している。
そもそもからしてこのひとは、あたしとのことを周囲に隠すつもりなど一切ないから、実質婚姻関係など形ばかりのものであるのは周知の事実だ。
けれど誰ひとりとしてそんなこのひとの醜聞を咎めようとはしない。
諭すようなこともない。
――ただ、憐れむようにあたし達を遠巻きにするだけだ。
何故なら、みんな知っているから。
結婚を目前に、引き裂かれてしまった…あたし以外の女と婚姻を結ぶより他無くなってしまったこのひとの、絶望と怒り。号哭を。
誰もが目にして耳にして、知っていたから誰も何も言えなくなってしまったのだった。










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