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4.


「今までさんざ袖にしといて、今更過ぎます。っっじょーだんじゃないわ!」
そう言っては悔しそうに歯噛みする。
収まらぬ怒りに身を震わせて、力いっぱい俺へと抱き着いてくるこの女は。
俺にはよくわからんが、どうも稀有な星廻りの下、生まれたらしい。
否、そう云う占いの卦が出たらしいのだ。
まだ、祖国に居た頃に。
それゆえなかなか婚約も纏まらず、夫となって『不実な男』の烙印を押されることを恐れた帝国内外の王族貴族は、皆彼女を遠巻きにしたらしい。
だが今になりその政治手腕と目を瞠る美貌とに興を惹かれているようなのだ。
――無論、妻として・ではなく。
ほんの一時情を重ねるだけの、一夜限りの遊びの相手として。
(っとーに軽く見やがって)
それがわかっているから松本も、こうもヤツらに対して憤っている。
外交上、愛想を振り撒くその傍ら、腸煮えくり返っていちいち俺へと泣き付くのだろう。
「おーさまはそんな大人になったらダメですからね!」
そう言っては繰り返し、まだガキの俺を諭しもしたのだろう。
だから肝に銘じた。心得た。
決してそんな扱いを『女』にしない。
無駄に色目を振り撒くこともない。
大事にするのはたったひとり、王妃たる松本だけで充分である、と。
(まあ、伝わらなかったけどな!)
(結構な勢いでスルーされたし、俺の想いなんぞ汲んでも貰えなかったけどな!)
それゆえそんな俺を不憫に思ってか、議会の連中並びに王宮に仕官する貴族も侍従も侍女達も。
果ては、下働きの使用人たちまで皆一様に俺を応援するようになった。

「王様、ガンバ!」

そんな目には見えないエールをあちらこちらから送られ続けて、さすがに凹みまくりもした。
(そうか。そんなにも対象外か、俺は…)
おーさま大好き!って抱き着いてくるそれは、所詮親愛の情でしかねえんだな。
そこら辺の野良猫でも愛でてんのと何ら大差はねえんだろうなと思ってやさぐれたことも一度や二度の話じゃない。
それでもやっぱり諦めは付かず、さりとて想いは伝わらないまま、共に歩んで間もなく六年。
やっとのことで背も伸びて、なんとか並んで見劣りしないだけのナリにまで育った。
――あいや、正確には松本の背には足りてねえんだが。
さすがにそこまで待ち切れなかったと云うべきか?
あとは、アレだな。
ちょっとだけ『男』として意識されてんなってのが、態度の端々に見受けられるようになったってのが大きい。
相変わらず俺との距離は近い。
大好き!ってうるせえし、ところ構わず抱き着いてもくる。
…けど、時々ハッと驚いたように俺を見る。
ほんのりと染まる頬。
その度ごとに逸らされる視線。
つってもその後「なんでだろ?」って言わんばかりにいちいち小首を傾げちゃいるが、無意識の内に俺を意識してんのは明白で。
だからひとつ腹を括った。
本当の意味で夫婦になるべく一歩踏み出してみたと云うわけだ。









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あきゅろす。
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