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3.


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前王の突然の崩御に伴い、僅か十歳で王位に就いた、まだガキの俺の後ろ盾となるべく嫁いで来た大国の姫。
――昔、俺の親父の世話になったことがあるからと言って、わざわざ自身の結んでいた婚約を破棄してまで俺の元へと嫁入って来た奇特な女。
(確かその当時親と大げんかして城を飛び出したっつー松本を、うちの親父が暫く『遊学』の名目で面倒見てたんだったか?)
その頃俺とも会ってて、ちょいちょい遊び相手をしてくれたっつー話なんだが、なにぶん俺がふたつみっつの頃のことなので、正直殆ど記憶にないと云うのが正直なところだ。
それでもあっちは俺のことを憶えていて、しかも親父に大層恩義を感じていた。
たったひとり残された息子の俺を。
まだ何の力もない俺を。
新たな『王』として支える為に――ただ、後ろ盾となる為だけに。
俺へと手を差し伸べてくれた、唯一の女。
…まあ、最初は記憶もなかったこともあって、正直「何だ、こいつ?」って感じではあったのだが。
しかもこいつはこう云う見た目で俺よか七つも年上の女であったし、しかも大国の王女とあらば、前王の崩御を機にこの国を乗っ取る腹積もりかと警戒のひとつも抱かなかったわけがないのだ。
けど、そうじゃなかった。
そんなんじゃなかった。
「まあ、言ってみれば前王への恩返しみたいなもんよ」
だからあんたがこの国を背負って立つ、立派な王様になる日まで。
あんたが独り立ち出来る日まで、あたしがあんたを支えてあげる。
後ろ盾となって守ってあげる、と。
笑って告げられた、あの日。
いずれにしろ国政のことなどまだ右も左もわからない俺は、その申し出を受けるより他はなかった。
何より大国の王女と云う後ろ盾は、あの頃の俺には喉から手が出るほどには欲しいものでもあったから。
王妃が王より七つ年嵩と云うこの無茶苦茶な婚姻を、受け入れるより他なかったのだ。



「まあ、王妃と言ってもあたしのことは単なる『相棒』とでも思ってくれたらいいわ。だからこの先もしおーさまに好きな子でも出来たら、遠慮しないで寵妃として召し上げてくれていいんだからね!」
そう言って。
あははと豪気に笑った女は、形ばかりの王妃として俺の元へと嫁いだのだけど。
母のように。
姉のように。
時に幼い妹のように俺へと接する。
或いは国を動かす為政者として俺の為にと尽力する、精力的に動き回るその姿に。その背中に。
家族として無二の愛情を注いでくれた松本を前に、俺の目が他の女へと向けられるような筈もなく…。
程なく俺がこの女へと恋落ちたのは言うまでもない。
とは云え、相手は年上。
(しかも七つも離れていやがる)
政にだって、俺よかよっぽど長けている。
況してや俺の『保護者』を自負する女を相手に、俺如きが太刀打ちできるわけもなく。
随分と手をこまねいたし、やきもきだってさせられた。
(何しろあの美貌とスタイルだ)
国内の貴族連中があれに手を出すような真似こそなかったが、他国の王族貴族共は平気な顔で色目を遣って寄越したのだから、腹立たしく思わなかったわけがない。
――まあ、尤もそんな連中を、あいつは歯牙にもかけなかったのだが。









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あきゅろす。
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