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3.


一緒に眠って、お風呂に入って。ご飯を食べて。
時々ふたりでおやつを作ったりもした。
本を読んで。
遊んで。
抱き締めて。
その存在に、当時のあたしがどれだけ癒されたことか。
――うん、だからね。
離れがたかったな。
本格的な冬の訪れを前に、さすがにそろそろ帰って来いって国から伝令が来た時は。
せめておーじさまのみっつの誕生日まで、一緒に居たかったな〜って思ったりもしたけれど。
そんなわがままを言ったら困らせてしまう。
あたしなんかに良くしてくれた、この国の王様と王妃様を。
だからおーじさまのみっつの誕生日を十日後に控えたその前に、泣く泣くあたしはこの国を後にしたのだった。
だからと云って、結局あたしの婚約が覆るようなことはなかったのだけど、久々にお会いしたお父様はちょっとだけ性格がまるくなっていたし、あたしはあたしでちょっとだけ、あの国に居たことで『星見』の結果を楽観視出来るようにもなっていたから。
その後は然程揉めることもなく、穏やかに以前までの生活に戻っていった。
おーじさまに会えないのは寂しかったけど、そんな寂しさもいつしか消えてしまったとある夏のことだった。
十の頃から決められていた、あたしの『初めての婚約』が、白紙撤回となったのは…。






*
*


あたしより八つ年上の婚約者だった、友好国の王子様。
だけどあたしとの婚姻を前に、自国の市井の娘との間に子どもが出来た。
あまつさえそのひとを正妃に迎え入れたいと言い出したとのことで、結局あたしとの婚約は立ち消えとなり、あちらの第二王子とあたしの妹姫との婚約を以って改めて政略を整えることとなったのだった。
(何しろあっちの王子はまだ齢四つと、あたしとでは年齢的に到底釣り合わなかったのだからしょうがない)
――てゆーかこれってもしかして、『星見』の通りになってんじゃないの?
まだ結婚もしていないのに、既に蔑ろにされてますけどもあたし。
早速捨てられてますけども、あたし!?
だからやっぱりそう云う星の元なんだ。
そう思って諦めた。
だってその後も何度か縁談話が持ち上がりはしたんだけど、結局どれもダメになっちゃったもの。
例えば相手が駆け落ちしちゃったり、周りには内緒にしていた寵妃がいたりと云う、どう考えても幸せになれそうもない縁談の数々に、これにはさしものお父様も頭を抱えてしまった次第だった。
そうして帝国内外で、実しやかに囁かれ始めた、『星見』の示したあたしの定め。
やっぱりあたしにまともな婚姻なんて無理なのだ。
仮に嫁いだところで、いずれ蔑ろにされて離縁される運命の王女である、と。
囁かれれば囁かれるほど、ますます以ってまともな結婚なんて望めないんだと悟ってしまった。諦めてしまった。
…やっぱりそうなる定めだったんだと思ったあたしが十六を前に再び結んだ婚約の相手は、遥か西の国――まだ十八の若さで後宮に既に愛妾が二十人もいると云う好色王子だったから、これにはさすがに脱力しなかった筈もない。
正直そんな男は絶対御免だったのだけど、『星見』の噂を知る近隣諸国の王族貴族は皆あたしを娶ることで不名誉且つ不本意な噂が立つことを恐れ、況してや世継ぎの王子が帝国の王女を正妃としながら蔑ろにする定めに巻き込まれては堪らないからと、あたしと結婚しようなんて男はついぞ見つけられなかったのだからしょうがない。
しかも今度の相手は第五王子だ。
ちょ、それどんだけ捨て駒!?って感じじゃない??
だから、まあ。
お父様としても、正直そこまで乗り気じゃないようで。
何ならいつ帰って来てもいいんだぞみたいな、半ば諦めの境地だったらしい。
差し当たって、世間で言われる『嫁がずの姫』にしたくない親心から結んだだけの、とりあえず嫁ぎ先の確保をしてみただけにも等しい婚約であり、いつ破談にしても構わない相手であって。国であって。
得にもならない。
損にもならない。
そんな、帝国にとってどうしても必要な婚姻ってわけでもなかった――多分それも大きかったのだ。
婚約から三ヶ月と経たず、嘗てあたしがお世話になったあの属国の王と王妃が揃って視察に出かけた先で事故に遭い、そのまま儚くなられたと聞いた時、残されたたったひとりの王子様の後ろ盾になろうとあたしが決めたのは。




ほんの二ヶ月、三ヶ月余り関わっただけの王子様。
だけど一番辛かった時にあたしを癒してくれた。
励ましてくれた。
慰めとなってくれたあの王子様の不安定な足場を固め、後ろ盾となって支えてあげたい。
力になれたらいいなと思ったのは、赴いた彼の国の国王夫妻の葬儀で王子様が…まだ十歳になったばかりの王子様が、孤独と寂しさに涙を堪え、気丈に振舞っている大人びた姿をふと目に留めてしまったから。
ただでさえ小さな国だ。
況してや新たな王は僅か十歳にも満たない。
いつ誰に寝首を掻かれるやもしれない。
傀儡の王となるかもしれないあの子を、今度はあたしが守ってあげたい・と。
思って名乗りを上げた。
――あたしをお嫁に貰って下さい!と。
うん、まあびっくりされたけど。
なんたって七つも年上だし?
既に婚約もしていたことだし?
だけどあっちにしてみれば、帝国の王女の後ろ盾が得られるなんてまたとないチャンスだったからか、思いのほかとんとん拍子に話は纏まった。
お父様は呆気に取られていたけれど、所詮嫁げずの娘。
ならば好きに生きるもまた一興と、結局は笑って背中を押してくれた。
どうせだったら彼の国を利用する価値があると思わせるほどに導いて来い、と。
送り出されて嫁入った。小さな王へと。
あたしのことなんてすっかり忘れて、生意気さに磨きのかかった少年王へと嫁いで、早六年。
なんとまあ、あっという間の出来事だろう。








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