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ニュー・ワールド・オーダー 1


あたしが『結婚』と云うものに一切の夢も希望も抱けなくなったのは、十歳の誕生日を迎えて程なくのことである。
否、そもそもが大国の王女と云う身分ゆえ、別段恋愛結婚を夢見ていたとかそう云うことは一切ない。
いずれ国の駒のひとつとして、どこか王族貴族の元へと政略的に嫁ぐであろうことはわかっていたし、それが当然なのだと承知もしていた。
即ちそう云った意味合いでなく、『結婚』そのものに希望が持てなくなったのだ。
――何故なら、十の誕生日を迎えた祝いの席で執り行われた、『星見』と呼ばれる占いの結果が余りにアレなことになっていたからに他ならない。


星の結果曰く、どうやらあたしは恐ろしく男運が悪いらしい。
まともな男との縁は望めない。
ばかりか、仮に婚約・結婚に至ったところで、いずれ冷遇されたのちに離縁される運命にある。
下手をすれば一生行かず後家で終わるやも…とまで言われて、僅か十歳のあたしが絶望しなかった筈もなく。
折しも十の誕生日を前に、友好国の王子との間に決まったばかりの婚約に、あたしが反発したのは当然のこと。
だってこのまま結婚したって、どうせ冷遇されちゃうんでしょ?
それで最終的には捨てられちゃうのよね?
離縁されて終わるのよね?
(わあ、ぜーっったいに冗談じゃないっ!!)
たかが占い。
されど占い。
そもそも『星見』はこの帝国に古くから伝わる占いであって、十の誕生日を迎えてすぐに行われるそれは、王族貴族の伝統的な儀式のひとつと言っても過言じゃない。
信憑性云々はともかくとして、その『星見』はこの先あたし達にとって多大な影響を及ぼすことは必至で。
その指針とも呼べる占いの結果がアレだと云うのに、誰が婚約を続けたいなどと思うものか。
皇帝であるお父様としても、占いの結果に多分に思うところはあったようなのだけど、だからと云ってそう簡単に友好国と結んだばかりの婚約を反故に出来ようわけもない。
それ以前にお父様ときたら、そもそもこの手の占いの類を基本信じていない上に、頑固で無駄に頭が固いものだから、同様に頑固で意固地なあたしとぶつからなかったわけがないのである。
斯くして『星見』に端を発して勃発した親子喧嘩は、その日限りで終息することはなく。
やがて拗れに拗れて、あたしの家出にまで及ぶこととなる。
――と云っても、王宮で蝶よ花よと育てられたあたしがひとり、どこへ行けるわけもなく。
結局すぐにも捕らわれの身となることとなる。
それも盗賊の手によって、だ。
あわや売り飛ばされる寸でのところを助け出してくれたのが、あたしの十の誕生日のお披露目の為にこの帝国へと訪れていた属国の王だった。
(うん、今考えても無謀も無謀。よくぞ無事に帰って来れたものだと思うわ)
そんな、どうしても婚約を取りやめたくて仕方ないあたしと、そうはさせるかと強固に反対をするお父様の間でその後も結局折り合いはつかず、険悪な空気は悪化の一途を辿るばかり。
それを打破したのが、件の属国の王だった。
結局あたしはそれから程なく、あの時あたしを助けてくれた王の国への『遊学』と云う名目の元、暫し祖国を離れることとなったのだ。
提案したのは皇妃たる母だったから、あたしもお父様も当然逆らえるわけがない。
「ふたりとも、少し頭を冷やしてらっしゃい」
普段はおっとり穏やかなひとなのだけど、有無を言わせぬ威圧的な黒い笑みを浮かべた時は要注意。
誰も逆らってはいけないことをあたし達は、嫌と言うほど学んでいるので。
尤もそんな母の鶴の一声に、逆らえなかったのはいきなりあたしを委ねられた属国の王もまた同じこと。
そりゃあもうとんでもなく驚いていたようだったけど、そもそも大国の皇妃相手に文句を言えるわけもなく、彼としてもその申し出を大人しく受け入れるより他なかったのだ。
…まあ、今となっては迷惑千万、申し訳ない限りの話なのだけど。
それでも当時のあたしには、『星見』の結果を受け入れるだけの心の余裕もなかったし、決まったばかりの婚約への不信と反発が余りに大き過ぎたのだ。









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あきゅろす。
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