5. しっかし、何なんだろうなこの夢は。 おーさまおーさま…って、俺なんだよな? んで、きっとこの松本はこの世界の俺の妃…なんだろうが。 (よもや朝の松本の戯言――『夢』の話にでも引っ張られたか?) あんまり奇抜な妄想だったから、脳に刻み込まれでもしちまったか、俺? そんで夢に見た。 それも、豪くリアルな夢。 いわゆる明晰夢と云うヤツだ。 ――まあ、そんなところだろうなと思って溜息を吐く。 (っとに、夢ン中にまで俺を巻き込むとかいったいどう云う女だよ) 最早呆れを通り越して笑いがこみ上げてくる始末だ。 「あー、やべ。すっげえ会いてえかも」 つーか、すっげえ抱きてえかも。 否、午前に抱き潰したばかりではあるのだが。 今傍らに横たわる、少女のような松本でなく。 奔放であけすけ、俺の前では惜しみなく女の色香を振り撒く、俺の良く知る松本乱菊に。 あの花開くような笑みで、眼差しで。 笑いかけて貰いてえかも。 抱き締めてえなと思ったから。 目覚めることを強く願った。 キラキラ眩いシャンデリアの輝く天上へと向けて伸ばした腕。 幼い手のひら。 棒切れみてえに細い腕。 松本が見たら、それこそ歓声上げて喜びそうだなと眉を顰めた先、不意に手のひらが掴んだやわらかな光。 「…たい、ちょ?」 気付けば俺の手のひらは、俺を覗き込む松本の髪をひと房握り締めていた。 * * 呆気に取られた、みたいな松本の顔。 死覇装から今にもこぼれ落ちんばかりに晒された胸元。 午前の情事の際に残した胸の噛み跡に、ようやっと浮上する意識。 「松本、か?」 「?寝ぼけてます?」 怪訝に顰められた眉。 どこからどう見ても俺の良く知る松本であることに。 そこが見慣れた執務室であることに、ホッと安堵の息を吐く。 (そうか、あれはやはり『夢』だったか) 何ともまあ。奇妙な夢を見たもんだ。 ドレス姿の、まだ少女のようなナリをした松本を、ガキのナリした俺が思う存分喰らい尽す夢。 「珍しいですよね、たいちょがお昼休憩終わっても目覚めないのって」 お疲れです?…なんて、くすくす笑っちゃあいるが、誰のせいだと思ってやがる。 「お前の与太話に付き合ったせいだ、あほ」 「えー、何ですそれ?あたしのせいにするとか随分ですねえ」 せーっかく起こしてあげたのに、って。 これ見よがしに剥れて見せつつ、長椅子へと上体を起こしたままに横たわる、俺の腹へと乗り上げる女。 「重てえぞ」 「重くないでしょ。しっつれーですねえ」 そんな意地悪ばっかり言うひとには、お目覚めのちゅーしてあげません、…って。 口にした傍からくちづけてくるとかわけわっかんねえな。 …まあ、もらうけど。 くれるっつーもんはありがたーく受け取るけどな。 → [*前へ][次へ#] [戻る] |