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6割よこしま 1


「たいちょ、大変。別世界の『あたし』ってば、たいちょの奥さんやってるみたいです!」

そんな馬鹿げたことを松本が口走ったのは、非番明けの朝の執務室でのことだった。






…つーか、朝っぱらから何を言ってんだよ、このバカは。
痛むこめかみを指で押しつつ、今の話を反芻する。
だが、当然のこと遠く理解は及ばない。
「あー…、松本。夢見が悪かったのは理解したから、茶あ淹れてくれ」
「ちっがあああああう!」
さっさと話畳んで仕事に取りかかろうと云う目論見は、だが松本の雄叫びによって意図も容易く打ち砕かれた。…ちっ!
「夢見がどうとかそんなんじゃなくて、あたし、別世界のたいちょに会って来たんですー!」
尚も言い張る松本曰く、昨日の朝目覚めた先は副官室の布団の中――ではなく、見知らぬベッドの中だったらしい。
(ほう?)
ふかふかとした異国のベッドで目覚めたと云う松本は、あろうことか男の腕の中に居た。
「ん…。早ええな、松本」
はよ、と。
欠伸混じりに告げた男こそが『俺』だったと云うのだから、まあ…驚きには驚きだ。
――但し、驚きに値したのは、このバカの妄想力の激しさである。
しかも『俺』はその国の王で、松本はその妃だったと云うのだから、これが笑わずにいられようか。
「おま、図々しいのも大概にしろよ」
「っっだから本当なんですってば!!」
夢でも妄想でもないんですー!って、あーうっせ。
ムキになんなよなあ、ほんと。

「だってあたし、昨日部屋から一歩も外に出てませんもん。それに夢ならちゃあんと起きるでしょ?でもあたし、起きたら『今日の朝』だったんですよ。非番の一日まるっと吹っ飛んでますもん。夢なわけがないんですー!」
「あー、わーったわーった。うっせえよ。ハイハイ、すげえな。つーか、やべえな。お前が王妃じゃあっちの俺とやらもさぞ苦労が絶えねえだろうよ」
だからてめえは仕事しろ――そう告げた途端、ぷうと剥れる。
たいちょ酷い!…って、事実じゃねえか。
「おーさまたいちょはそんな酷いこと、ひとっ言もあたしに言いませんでしたーっ!!」
「…すげえ妄想」
「だから妄想じゃないって言ってんでしょが!傍に居てくれるだけで安らぎになる…って、うーわあー!!思い出しただけでも照れる!サブイボが立つ!!」
「鳥肌立ててんじゃねえか!!」

喜んでんだか引いてんだかわっかんねえよ!!と突っ込めば、それはそれですと流しやがった。この野郎。










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