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15.


「そう云えば、もうじき村のお祭りだねえ」

こっちとあっち――つまりあたしの住んでる村なんだけど――では、どうやらあたしの思った通り、時間の流れに少々のズレがあるようだった。
そしてそれを教えてくれたのは、やっぱり乱菊さんだったんだけど。
乱菊さんの体調が戻って程なく、予てから気になっていた、こっちと村との『時差』についてそれとなく訪ねてみたところ、存外あっさり「そうよう」と。
肯定の返事を貰って呆気に取られた。
「こことあんたの住んでた村とじゃ、時間にしておよそ十日…ってところかしらね。進み方がちょっと違うの」
あたしも最初はびっくりしたわようと暢気に笑う乱菊さん曰く、以前とーしろーを神域に置いて、所用でひとり森の外に出たことがあるらしい。
その際ひと晩森の外で過ごしてから、明けて昼過ぎぐらいに森へと戻ったところ、とーしろーが豪く衰弱していたことに驚いてしまったと云う。
何しろ森を空けていたのは、たった一日弱のこと。
多少遅くなることも考慮して、翌朝の食事の用意までして森を出たと云うのに、――これ如何に?
そんな疑問が脳裏を過ぎったと云うのだけれど。
聞けば、乱菊さんのいない間とーしろーは、十の朝と夜とを迎えた。
その間ずっと乱菊さんの帰りをひとり案じていた。
待ち侘びていた、と。
憔悴しきったとーしろーに言われて、大層驚いてしまったらしい。
「まだ今よりうんと幼い頃だったから、きっとすっごく心細かったんだと思う。知らなかったとは云え、あの時ばかりは随分なことをしちゃったわ」
以来、殆ど森の外には出ない。
仮に出掛けても、ほんの一、二時間程度で戻るようにしていたらしい。
「ま、今じゃその必要もなくなって、そんなことすーっかり忘れてたんだけど!そうそう、あんた達の住まうあっちとこっちとじゃ時間の流れ方が微妙に異なるのよねえ」
先に教えとけば良かったわねー…って、アナタ。
暢気に抜かしてくれますが。
それ、結構大事なことだと思うんですけど。
むしろもっと早く教えて頂きたかったと思ったところで、このひとのことだ。
まったく以って悪びれない。
ごめんごめんで往なされてしまうのだから、こっちとしても毒気を抜かれてしまう始末だ。
(でも、そうか。だからこの間家に戻った時、一日しか経ってなかったのかー)
理屈としてはわかるんだけど。
へーんなの!
だって普通そう云うのって、逆なんじゃないの?
神域の方が時間がゆっくり流れる…とかなら何となくわかるけれども。
(だって浦島太郎とか、さ)
陸に戻ったら百年後、だっけ?
なのに十日経ってもあっちじゃ一日…って、なんだかなあ。
まあ、たまの里帰りでみんなが、誰が誰だかわからないぐらい様変わりしてる――とかじゃないから別にいいんだけど。
みんないきなりおじいちゃんおばあちゃんになってるとかじゃなくて良かったけどさ。
だってそれじゃああんまり寂し過ぎる。
変わらぬ笑顔がそこにあるのは、ひとりこんなところに来ちゃったあたしの大きな心の支えでもあったのだから。
だからその話を聞いて以来、あたしはあんまり長くならない程度に、けれど余計頻繁に家へと顔を出すようになった。
だってとーしろーは何も言わないし。
むしろ寂しいのは当然だろうから、って。
その辺あたしの好きにさせてくれたし?
…それに、たまには友達やクラスのみんなとも遊びたかった。
テレビも見たいし、漫画も読みたい。
おいしいご飯やあっちじゃ先ず食べれないような、甘いアイスやジャンクなお菓子が食べたいなあとも思ったから。
(所詮あたしはテレビも漫画もスマホだって手元に無ければ我慢が出来ない、いわゆる今時の小娘なのだからしょうがない)
そうして時々森へと持ち込む、ジャンクなお菓子や漫画や雑誌。
あっちにはない調味料や手作りのクッキーを、殊のほかふたりがもの珍しがって喜んでくれたから。
いつしかこっちとあっちを行き来する、そんなことが当たり前になっていたのだ。
そうして今日も家からポテチとアイスを持ち帰って来たあたしは、ちょっと溶けかけのアイスをとーしろーとふたり食べながら、さっきママから聞いたお祭りのことを話題に上げた。










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