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13.



元々朝は食の細いとーしろーは、結局その日、いつも以上に食が進まない様子でふたくちみくち、ご飯に手を付けただけで、「ごめんな」って箸を置いてしまった。
でも、若干お疲れ気味の目の下の隈を見ると文句は言えない。
その点乱菊さんてばすごいよね。
無理やりみたく食べさせちゃうもん。
…まあ、「食べられないんならあたしが食べさせてあげますね!はい、あーん」なんて。
箸取り上げるとか、先ず無理だし。
それに、
「残しちまったけど美味かった。お前、昨日のクッキーといい、料理上手なんだな」
なんて言われてしまったら、照れるより他ないわけで。
「あいつもなー、お前ぐらい料理の腕が上達すりゃあいいんだが」
そうでしょう、そうでしょうとも…と。
上機嫌で膳を下げた次第だった。
それに残ったお菜は昼にまた貰うと言ってくれたから、それだけ残してふたり並んで後片付けをした。
手伝うと言ってくれたのが嬉しかったし、手際の方もなかなかのもの。
うん、やっぱりいい旦那さんになるわよ、あんた。
「洗濯…は、どうしよっか?」
「いいよ。明日松本がやる」
「…そお?」
病み上がりなのにいいのかなー…って気がしないでもないんだけど、洗濯機もないのに全部手洗いは正直キツイ。
一度やっぱり乱菊さんに手伝いを乞われて一緒にやったことがあったんだけど、手は痛いし疲れるしで、…うん。
やっぱすっごい不便だった。
てゆーかあたしとしても、乱菊さんにお任せした所存だったので、これ幸いと手を引いた。
「あでも、掃き掃除ぐらいなら出来るから!」
「ああ、すまない」
どこか申し訳無さ気に言ったとーしろーに笑い掛けて、あたしは箒と塵取り、ついでにはたきを取りに行った。
…ええ。当然掃除機なんてものがあるわけないので。
あーでもコロコロ?クイックルワイパーはあるととっても便利だよね。ほしーよねー。
今度家から持ってこようかなーなんて思いながら、ひとつひとつ部屋を掃く。
こんなんで綺麗になってんのかはわっかんないけど、まあ洗濯よりかは全然楽だしねー。
なんて廊下を掃いていた時のことだ。
(とーしろー?)
中庭を挟んだ向かいの部屋。
半分開いた障子の向こうに冬獅郎の姿を見て取って、あれ?と傾げてしまった首。
(あそこってばとーしろーの部屋だっけ?)
だけどすぐにも気が付いた。
敷きっ放しの布団。
こんもり盛り上がった掛け布団の中にはきっと、乱菊さんが眠っているに違いない。
(お見舞いかな?)
口では冷たい素振りだったけど、なあんだやっぱり心配なんじゃん。
なんて思ってくふりと笑った。
従者思いのいい神様だな、なんて暢気に考えていた。
――知らなかったから。
ここからじゃ、ちょっと遠くてはっきりとは見えなかったから。
眠る乱菊さんを見下ろすとーしろーの、どこか思い詰めたような眼差しを。
盛り上がった掛け布団の向こう、くたりと放り出されていた乱菊さんの細い手を、とーしろーがギュと固く握り締めていたなんてこと。
あたしは何も知らなかったから…。










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あきゅろす。
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