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12.


「わあ。とーしろー、すっごい隈じゃん、目の下!」
驚いたのは、朝起きて顔を合わせたとーしろーの寝起きの顔が、酷く冴えないものだったからに他ならない。
いつも綺麗に整えられている銀色の髪は、ちょっとパサパサのしょぼしょぼで。
目の下は隈で真っ黒だ。
「んー…、ちいっと夢見が悪くてな」
「へえ。神サマも夢なんて見るんだ!」
意外ーと笑うあたしに苦笑で返して、よれよれの寝間着のまんま欠伸をひとつ。
なーんか、アレだよね。
乱菊さんがいないと威厳のかけらもないよね、この子って。
ほんとただのコドモなんだなあと思って、しげしげと眺めた先で、とーしろーが汲み置きの水を飲みながら、
「熱は下がったみてえだが、松本はもう一日休ませる」
有無を言わさぬ口調でそう告げた。
「あれ?様子見て来たの?」
「……ああ。朝方にちょっと、な」
あれ?なんだろう、今の間…って。
気にならなかったわけじゃないけど、まあ大したことでもないかな?って思って「そっか」と流す。
「でも良かったよ、やっぱり乱菊さんがいないとここって賑やかさに欠けるしね!」
「違いねえ」
フッて笑って、目を伏せて。
少しだけとーしろーの目に輝きが戻る。
うん、寝起きがほんと宜しくないよねこの子。
「じゃあ、朝ごはん。どうする?」
「あー…、そうだな。松本もいねえしな」
「なんならあたしが作ろうか?」
勢い込んで申し出たあたしに、ちょっとだけ目を丸くして。
「や、でもお前、花嫁なのに…」
困ったように言い濁したとーしろーは、いったい『花嫁』を何だと思っているんだろう。
(あれかな?あんまり良くわかってないとか?いやだってまだコドモだし)
「あのさ、変な遠慮しなくていいって。だいたい奥さんのあたしが旦那様であるとーしろーのご飯作るのってば向こうじゃ普通なの、普通。だからいいよ、遠慮しないで!ちょっと待ってなよ、簡単だけど何か用意するから」
「あ、おい…!」
「はいはーい、とーしろーは顔洗ってさっさと着替えてくるー!」
聞く耳持たずとばかりに言い切って、びしっと外の井戸を指差す。
「乱菊さんがいないとなーんにも出来ない男なんてカッコ悪いんだからね」
「…わーったよ」
ちょっとだけムッとぶすくれてしまったとーしろーを追い出してから、昨日の残りのご飯があるのを確かめて。
卵を焼いて、お味噌汁を作る。
竈でご飯、とか。
初めてだけど。
何とか乱菊さんの見よう見まねで火を起こしてみた次第。
(一応ね、こう見えてお手伝いとかしてんのよ、あたしも)
とは云え、大したものは用意できないし、ご飯だってお冷なんだけど。
まあ…何とか出来上がった感じ?
「あ。乱菊さんも何か食べるかなあ」
こんな時だから、おかゆ…とか?
さすがに米から作るとかは無理だけど、くたくたに煮たご飯に卵を落とすぐらいならあたしに出来ないこともないから、程なく戻って来たとーしろーと膳を囲みながらそれとなくだけど切り出してみる。
「乱菊さん、おかゆとか作ったら食べるかな?」
けれどとーしろーの答えは素気無いもので。
「いや。あいつの飯はいい」
一日二日食わないぐらいで死ぬようなタマじゃねえよ…って、なんか意外。
(頭上がらないとか言ってた癖に)
冷たいなーとか思っていた。
この時は、まだ。









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あきゅろす。
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