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11.


だから咄嗟に口にしていた。
ほんの少し、それにきょとんと目を瞬かせたとーしろーは、けれどお茶碗片手に「ああ」と頷いてくれたから。
会話の兆しを見い出した気がして、思い付くままに話題を振った。あのひとのこと。
(だってそうすれば喋ってくれるし)
間が持つしね!
それにとーしろーの表情もちょっとだけ、豊かになるからいろんな話をした。
そしたらお通夜みたいだった夕飯は、途中から随分と賑やかなものになったから、あたしは人知れずホッと胸を撫で下ろしたのだった。
まあ、おかげで詳しくなったわよー。
とーしろーのわかる範囲でいろいろと教えてもらった。
この森のこと。
神域のこと。
――それから、乱菊さんのこと。
何でも代替わりとして生まれ出たばかりのとーしろーを、今日までずっと面倒みてくれていたのが乱菊さんだったらしいのだ。
なるほど、それじゃあ確かに長い付き合いだ。
その乱菊さんだけど、何でも元は森に住んでた『ホタル』だったとか!
(ホタル!?)
なんともまあ、似合わな…おっと、ゲフンゲフン。
この森に住まう、ホタルの化身。
ヒトであらざるもの。
今よりずっと幼かったと云う、生まれ出たばかりのひよっ子神様だったとーしろーを、この森で見つけて今日まで育ててくれた恩人。
それゆえ頭が上がらないのだと云う。
(なーんだ、それじゃほんとに姑なんじゃん)
だけどこの神域のことは結局良くはわからないまま。
とーしろーもこれまで『外』に出たことは一度もないから、時間の流れ云々と云うあたしの質問に答える術を持っていないようだった。
「ああ、けど。多分松本なら知ってんじゃねえ?今はそうでもねえけど、前は時々森の外に出入りしてたから」
そうも言っていたから神域のことは、乱菊さんに聞いてみようかなとも思っている。
まあいいやとあたしがその夜、いつも通りお布団の中に潜り込んだ、ちょうどその頃。
寝込む乱菊さんの元へととーしろーが訪れていた。
その枕辺に腰を下ろして、
「――大丈夫か、松本」
熱に魘されるその手を取って、酷く案じていたことをあたしは知らない。
「…やはり『森』はアレを選ぶか」
口にして。
微かに浮かべる、苦悶。諦念。短い舌打ち。
「あったり前でしょ、あの子はあなたの『花嫁』なんですから」
そんなとーしろーを呆れ口調に往なす、苦笑混じりのやわらかな声が、夜のしじまにぽつりと落ちる。
キュと眉間の皺を深くして、黙れと命じて手を伸ばす。
「いいから、少し寝ろ。寝てる間に『綻び』を治す。なあに、二日もありゃあ元に戻る」
小さな手のひらが乱菊さんの瞼に翳されて、ゆっくり閉じられた青い瞳。
繋がれたままのふたりの手。
――それこそ、夜が明け空が白むまで。
とーしろーがその傍らに在ったことまでも。
知らないままに、あたしはまた朝を迎えたのだった。











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