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10.


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結局その日、とーしろーの案じた通り、夜になって乱菊さんは熱を出した。
そのまま寝込んでしまったから。
(なんだ、案外弱いんだこのひと)
とーしろーがあれほど気に掛けた理由がわかった気がして、ほんのちょっとだけ驚いた。
「乱菊さんて身体弱いの?」
「いや。そうでもねえけど、ここんとこちょっと疲れてるっぽいとは思ってたからな。一応少し案じてた」
「ふーん。よく見てんね」
「まあ、それなりにあいつとは長い付き合いだからな」
苦笑混じりに言うとーしろーと、今日はふたりで膳を囲む。
ふたり分、寝込む前の乱菊さんの手によって夕飯は既に用意されていたから、もそもそとふたりでご飯を食べる。
元々とーしろーはあんまり口数の多い方じゃなかったから、乱菊さんのいない分、夕飯の席は酷く静かなものとなった。
(そう考えるとあのひとって、ほんっっと良くしゃべるし賑やかだよね)
ご飯の最中だって、とーしろーに掛かりきりで、よく「ちったあ大人しくしてらんねえのか」って、とーしろーに窘められていたっけ?

「今日は木の芽を天ぷらにしてみましたー」
「おいしーですかね、神さま」
「あ、神さま大変お塩がちょっと多すぎました!」
「やですね、ほっぺにご飯粒くっ付いてますよ」

事あるごとにとーしろーのお世話を焼いて、にこにこにこにこ笑っている。
興味深げにあたしに『ヒト』の世界の話を聞く。
笑ったり。
拗ねたり。
驚いたり。
なんと云うか…表情豊かで好奇心旺盛。
とーしろーの世話を焼くのが何より楽しくってしょうがないってひとだから、いないだけで恐ろしく静かだ。
と云うか、どうにもふたりだけだと間が持たない。
気まずい…ような気がして、――だから切り出していた。

「ええ…っと。乱菊さんて、この森の主…なんだっけ?」

何でも良かった。
ぶっちゃけ、今この瞬間、話題になるものだったなら。
ただこの居た堪れない『間』を何とか出来る話題であれば何でも良かった。
とーしろーとの会話を繋げる、最適な話題が見つかれば。
漫画のこと?
テレビのこと?
音楽のこと…って、そんなの無理だし!
ぜったいとーしろーが知るわけないしっ!
困りに困ったあたしが思い付いた、あたしととーしろー共通の話題は、やはり乱菊さんのことしか思い付かなかったから。










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