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8.


「乱菊さんて、この森の主…なんだっけ?」

それとなく切り出したのは、明くる日のこと。
乱菊さんの用意してくれた朝ごはんで簡単に朝食を済ませて、少しだけ片付けを手伝った後、昨日作ったばかりのクッキーを、冬獅郎と乱菊さんに「どうぞ」と差し出した。
初めて目にするお菓子に、とーしろーはもとより乱菊さんも興味深々で、早速一枚摘まんでふたり共、美味しい!って喜んでくれたのが嬉しかった。
「やあだ、あんた見掛けに寄らずやるじゃない!」
…って、失礼だよね。ほんっっとこのひと。
「乱菊さんに言われたくない」
プイとそっぽを向いたなら、お返しのように「なによう、生意気!」って軽くほっぺを抓られた。
「いたあ!」
「よせ、松本」
「っはーい。…ごめんなさい」
窘められて、渋々ながらにあたしに謝る乱菊さんは、何だかんだと言ったところで、とーしろーには従順なのだ。
対するとーしろーも、普段驚くほど乱菊さんには寛容であるものの。
ああ見えて、なかなかに手厳しいところは手厳しい。
そしてあたしには――恐ろしく甘い。
花嫁だからか、とにかく何をするにも寛容で。
結局あの繕い物の山もあたしが戻って来るまでに、全て乱菊さんにやらせてあったことからも、あたしへの寛容さが否応にも窺えようと云うものだ。
今だって目をキラッキラにさせて、あたしの作ったクッキーを美味い美味いと食べてくれている。
(まあ、それ以上に乱菊さんの方がばっくばっく食べてんですけど。ほんとこのひと遠慮ってものを知らないよねー)
それゆえ、これにはとーしろーも苦笑気味で。
「お前、朝飯食ったばっかだろーが」
と、呆れ返っていたのだけれど。
だから腹ごなしにと、その後三人で森の更に奥まで散歩に出た。
少し行った先には小さな川があり、その周辺にはシロツメクサが咲き誇っていたから、久々に花冠なんぞを作ってみた次第。
「でーきた!」
はい、神様!って嬉しそうに乱菊さんが差し出したのは、それはもう見るも無残な花冠…いやもう花冠!?って感じの仕上がりだったんだけど。
優しいとーしろーは、幾分困った様子で「あ…ありがとうな」と大人しく、頭を差し出し受け取っていた。
それに満足したのか乱菊さんは、「あ、あっちに向日葵が咲いてます!」って、まだ花冠を作ってる最中のあたしととーしろーをその場に残して、ひとり川向うへと駆けて行ってしまったのだ。
(て、ゆーか。幾つだよ、あんた)
花冠に向日葵如きで元気だなあと呆れつつ、尚もシロツメクサを黙々と編む。
「うまいもんだな」
感心しきりのとーしろーは、端から花冠を作ることを諦めているようだった。
銀色の頭にちょこんと乗った、乱菊さん作のシロツメクサの王冠があんまり不出来だったから、謙遜するのも今更過ぎて、まあねと笑うに留めておいた。
恐らくあたしの言わんとするところを察したのだろう、とーしろーもこれにはどこか苦笑いだ。
「あいつもなー、何であんな手先が不器用なんだか」
やる気はあるんだが腕がどうも付いて行かねえ、と。
なかなかに的を得た評価を下す。
「さっきの、くっきー?ってのも美味かった。初めて食ったぞ、あんな菓子」
「気に入った?」
「…ああ。ほろほろですげえさくさくだった」
松本も気に入ってたみてえだし、また作ってくれるか?…って、ほんと照れます。いやマジで照れます。
イケメンショタが、このやろう。
赤く熱った頬を隠すように、小さく頷いたあたしに向けて「約束な」って、差し出された幼い小指。
絡めてふたり、指切りをした。
――その、熱が。
冷めやらぬ内に川の向こう、響き渡った賑やかな声。


「ふっぎゃあああああ!」











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