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7.


だから慌ててスプーンを置いて、
「ママ、今日って何日?!」
のんびりとオムライスを頬張っているママを問い質す。
ほんの一瞬顰められた眉。
けれどママが口にした日付は、あろうことかあたしが向こうに行ったその翌日であったことに、唖然と言葉を失くしてしまったのだった。
――え?でもあたし、向こうで優に十日は過ごしてたよね?
寝て、起きてを繰り返したよね。
(どーゆーこと?)
なのに実際は一日しか時間は経っていなかった。
スマホの電池は減ってなかった。
…つまりスマホは壊れてなんていなかった?
(えー、壁にぶつけたのに頑丈だなあ)
なんて現実逃避に身を浸しつつ、再びぱくりと頬張るオムライス。
「ただいまー!」
程なく妹が帰宅を告げる声がして(妹はまだ中学生だから、今日もまだまだ学校なのだ。いやあ、高校生ってば楽よねー)、
「あれえ?なに、お姉がいるじゃん!なあんだ、彼氏と駆け落ちしたんじゃなかったのー?」
「これ!違うわよ、あんた他所で変なこと言いふらしてないでしょうね」
「はあ?!してないよ、てゆーかお腹空いたあ!あたしもオムライスー!」
「はいはい、ちょっと待ってなさい。今用意するから」
交わされるママと妹の賑やか過ぎるやり取りすらもどこか遠く、あたしは暫しの間混乱状態に陥っていたのだった。
とは云え、嫁いだ相手は神様。
この世のものではないのだから、そりゃあこんなことぐらいあって当たり前なのかもしれない。
(うん、そう云う本とか漫画も読んだことあるし)
同じようなものかと程なく納得してしまったのは、偏にあたしの頭が緩いからに他ならない。
そもそも聞いてみなくちゃわっかんないしねー。
そうとわかればちゃっちゃとクッキー作って、さっさととーしろーの所に行くに限ると粉を振るう。
「あ、なになにお菓子作んの、お姉?」
「んー、ちょっとクッキーをね」
「この暑いのに?」
「いいでしょ、別に。てゆかあんたの分はないわよ」
「あ、ひっど!」
ぶうと剥れた妹を台所から追いやって、クックパッド先生のレシピ片手に簡単クッキーを作る。
材料は、小麦粉・お砂糖・マーガリンだけと云う、信じられないぐらいに簡単お手軽レシピなのだ。しゅごい!
そんな調子に乗って妹と家族の分まで作っていたら結構な量になったので、いやはやすっかり遅くなってしまった。
冷めたところで、適当な袋に詰められるだけ詰め込んで。
「じゃあちょっとあたし行ってくるから!」
結局その日家を後にしたのは、もう間もなく夜も八時になろうとしている時分のこと。
たまたま早く帰って来たパパを交えて、少し早目のお夕飯をみんなで食べたりお喋りしてたら、すっかり遅くなってしまったのだった。
祠までパパと妹に送ってもらって、来た道を戻る。
のちに聞いた話では、祠の前で突如あたしの姿だけが消えてしまったらしく。
ふたりとも、後に続くことは出来なかったとのことだった。
(わあ、ホラー?)
そりゃあ、驚くよね。神隠しだね!って今じゃ笑い話なんだけど――って、話を戻そう。
真っ暗なのに、道行く先はホタルの灯りに照らされていて、あたしはとーしろーの待つお屋敷目指してひた走る。
そうして辿り着いたお屋敷の、広い縁側でひとり乱菊さんが、白く輝く細い月を見上げていた。
――ううん。その膝の上に、仰向けに横たわるとーしろーの頭をそっと乗せて。
団扇を片手に、ふたり夕涼みを楽しんでいる姿を目に留めてしまい、ほんの一瞬声を掛けることが憚られる。
ふたりの傍を舞う、幾つものホタル。
淡い光が月明かりと共に、ふたりを闇夜に照らし出す。
(…キレイ)
思わず見惚れてしまうぐらいには、寄り添うふたりは様になっていた。
まるで良く出来た一枚の絵画のよう。
そう、踏み込むのにあたしが一歩気後れしてしまう程には。
立ち入れないナニカが確かにそこにはあったのだ。
――パキン。
けれど意図せず後退ってしまった先で、踏み潰してしまった細い枝。
気付いたのは乱菊さんで、
「あら、おかえり」
と、すぐにもあたしに向けられる笑顔。
遅れること暫し、乱菊さんに背を支えられながら、ゆうるり身体を起こしたとーしろーが、「おう。おかえり」と。
はにかむように出迎えてくれたのだけど。
どうしてかこの時あたしはふたりを前に、上手く笑顔を取り繕うことが出来なかったのだ。










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