[携帯モード] [URL送信]
5.


「あたしは外で薪を拾って来るから、後よろしくねー!」
…って、やーらーれーたあああああ!!
とっととその場を後にした、金髪美女の背中をぐぬぬと歯軋りで見送って。
取り残された、あたしととーしろーふたりきり。
――あれ?そう云えば、ふたりきりって珍しくない?
一応夫婦、なのだけど。
大抵いっつもお邪魔むし…じゃない、乱菊さんが傍に居るから。
この子の傍には必ずと言っていいほどあのひとが居て、率先してその世話を焼く。
だから夫婦と言えどもこんな風に、ふたりきりになるなんてこと、ここに来てから一度としてなかったから。
何ともこそばゆいような居た堪れないような?
極まり悪さにちょっと戸惑う。
だけどどうやらそんなことを思ったのはあたしだけだったようで。
「松本のヤツ、…っとにしょうがねえなあ」
繕いもんばっかこんなに済まねえな、と。
困ったように笑い掛けてくれたから。
「ま、しょうがないよ。繕い物全部血染めにされても困っちゃうし?」
「だな」
あたしもいつものように軽口で返すことが出来たのだった。
――それに。
なんかこーゆーのって、夫婦っぽいよね?
旦那様の服の繕いものをする、なんて。
ちょっと奥さんぽくって良くない?なんて思って、ちょっぴり紅潮してしまう頬。
(や、相手どう見ても小学校高学年ってカンジなんだけど)
妹よりまだちっちゃいんだけど。
弟みたいなもんなんだけど。
でもまあ、決して嫌な気はしないので。
「ね、とーしろー」
「ん?」
「今度さ、おやつ。作ったげようか?」
調子に乗って口を衝いて出た。
「…おやつ、か?」
「うん。ほっほら、とーしろーって甘いもの嫌いじゃないでしょ?だからね、クッキーとか。作ってあげたいなーって」
「くっきー?」
なんだそれ、って。
首を傾げつつ興味深々な様がとても可愛い。
ほんとはご飯を作ってあげられたらいいんだろうけど、それは、まあ…一応乱菊さんのお仕事なので。
あと、うっかり調子に乗ってさっきみたく、
「じゃあ、これからご飯の準備もあんたがよろしくね!」
なんて、まるっと押し付けられても困るので。
それにおやつは基本、祠に供えられた――例えばおまんじゅうだったりお団子だったりをこちらで頂くだけだったから、たまにはクッキーとかケーキとかだって食べたいじゃん?と思っての提案だった。
あと、とーしろーに食べてもらいたいじゃん、あたしの作ったお菓子とか。
「ええっとね、小麦粉にバターとお砂糖を入れて練って焼いたお菓子なんだけど、さすがにここじゃ材料もオーブンもないから、ちょっとだけ…その、家に戻って焼いて来てもいい?」
あー…やっぱだめ、かな?
それに、出来ることなら家族にも。
ちょっとぐらい会いたいしって思ったら。
「ああ、別に構わねえぞ」
存外あっさりお許しが出て、逆に驚いてしまったぐらいだ。
「え、嘘。いいの!?」
「ああ、構わん。お前の言った、くっきーってのも食ってみてえし、まあ…こっちには松本もいるしな。たまには息抜きだってしてえだろ?」
ずっとこっちにいるんだ、そろそろ家族が恋しくなって来た頃じゃねえのか?
そう言って、くつと笑ったとーしろーは。
なるほど、ちゃあんとわかっていらっしゃる!
「やったあ!ありがと、とーしろ!」
「松本には俺から上手く言っておくから、好きに行って来い」
「はーい!」
さすが神様だ。
とーしろー様だ。
「ああ、ついでにこれも。松本にやらせるから無理せんでいい」
「わあ、ごめん!てゆーかこのぐらい、戻ったらちゃんとやるよーあたし」
「いいんだ。元はと言えばあいつの仕事なんだしな。気にせんでいい」
そう言うと、針と糸とをそっとあたしの手から取り上げる。
その際触れた指先に、とくりと鼓動が高鳴ったのは、いったいどうしてだったんだろう…。



結局その日、あたしは乱菊さんが薪を拾いに出ている間に森の神域を後にして、およそ十日振りに家へと戻って来た。










[*前へ][次へ#]

6/49ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!