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魔女の手ほどき 1
※『Gotta find the way to go』の、院生日番谷×松本ネタその6に付き苦手な方は要注意☆その6ですが遡って馴れ初めネタです。松本が恐ろしくダメな女です(w;



襦袢ごと死覇装の肩をずらして背の半ばまで肌を晒す。
取り払った首元のスカーフ。
襟足の髪を掻きあげて、ただれのような醜い痣ごと上半身をあの子の前に曝け出す。
「背中までたあ…結構酷でえな」
「でしょー?この痣のおかげでここ何年も男の一人も作れなかったんだから、最悪よう」
「…暢気だな、お前」
呆れたように絶句して、今再び澄んだ翡翠があたしを射抜く。
痛いぐらいの視線を背中に感じて、なんだか酷く居心地が悪い。
「あんま期待するんじゃねえぞ」
躊躇いがちにそう言って。
スッと翳された小さな手のひら。
肌に触れるか触れないかの位置で、治癒の為の鬼道を放つ。
初めは背中から少しずつ。
生憎その治り具合までは背を向けているあたしにはわからないけれど、どうやら治療は存外上手く行っているらしい。
ゆっくりゆっくり少しずつだけど、翳す手のひらの位置が動いてゆく。
「もしかして上手くいってんの?」
「おお。思ったよりはな」
謙遜かしら?とは思ったものの、とりあえず大人しく背中を預けておく。
ああ、今度は首の辺りがあたたかい。
どうやら半刻も経たない内に背中の治療は粗方終わったらしい。
「腕、疲れたろ。もう下ろしてもいいぜ」
耳元にそっと声を落とされて、ぞくりと肌が粟立った。
やわらかな銀色の髪がサラリと首筋を優しくくすぐる。
反動で思わずビクリと肩が震えたら、動くんじゃねえとすかさずピシャリと窘められた。
「んもー、ちょっとぐらいはいいでしょー」
「うるせ。加減が結構難しいんだよ」
「……っそ」
治癒系の鬼道なんて殆ど才能の無いあたしには加減も何もわからないけれど、この子が難しいと言うのであれば大人しく従うよりも他は無い。
「うし。こっちはもういい」
「じゃあ、今度はそっち向けばいい?」
「ああ、頼む」
何気ない調子で言ったあの子の方へと改めてあたしは向き直る。
すぐ目の前には膝立ちをしたあの子の顔が。
「上、ちょっと向いて首反らしとけ」
顔色ひとつ変えないままに命じるあの子の為すがまま、あたしはクイと首を反らす。
「ああ、結構酷でえな前も」
そんな呟きと共に翳される手のひら。
見上げる先、あの子の瞳にはやっぱり動揺ひとつ見られない。
(一応あたし、もろ肌晒してるんだけどな)
襦袢ごと大きく肩をずらした死覇装。
開けっぴろげのままなんだから、当然だけど、明らかに見えてる筈よねえ?…オッパイとか。
多分、この子の位置からだったら丸見えよねえ?
なのに顔色ひとつ変えませんか。
動揺ひとつ無しですか。
いっそ清々しいほどスルーですか、そこ。
うわー、ある意味自信無くすわあ。
あたしのこの爆裂生オッパイを前にして、こうも無関心でいられた男なんて過去に一人といないんだけど。
幾らお子ちゃま相手とは言え、凹むわーコレ。
いやいや、だからって目の色変えて飛びついて来いとまでは言わないけども(当たり前だ)、それにしたってもうちょっとこう…照れて目を逸らすとか、顔を赤くするとかのリアクションくらいあってもいいと思うのよねー。
(わー、つまんない子!)
喉元付近に翳された手のひら。
時折ゆるやかに上下して、チリリと産毛を微かに掠める。
…指先、が。
(う、わ…!)
放つ鬼道はあたたかいのに、掠める指先はひんやりと冷たい。
そのアンバランスさに肌が粟立つ。総毛立つ。
「寒いのか?」
不意に問い掛けられて、慌ててあたしは首を振った。
そうではない、と。
だけど同時に驚きもした。
寒いのか…って。
それ、あたしの肌の状態とかちゃんと見てたってことなのよねえ?
「なるべく早く済ますようにする。もうちょっとだけ我慢しろ」
そんなさり気ない気遣いすらも、ちょっとばかりこそばゆい。
(だけど悪い気はしない)
そうして、つ・とこの子の頬を汗が一滴伝ってぽたりと落ちた。
ああ、すっごく集中してるんだ。
そういえば、授業で習ったばかりだって言ってたっけ?
それじゃあ慣れてないのも無理ないわよねえ。
オマケに彼是一時間近くも鬼道使いっぱなしなんだもの、そりゃあ疲れもするわよねえ。
しかもまだまだ子供なんだもんね、この子って。
「ね、適当でいいわよ。そんなに無理とかしなくても」
だからあたしなりに気を遣って、暗に大変だったらもういいからねと中断を促したつもりだったのだけど。
「バカ言え。あとちょっとだっつッてんだろ」
意図も容易く、無下にされた。
それも、「せっかく綺麗な肌してんだから、勿体ねえだろ」って、窘められて。
…うえええええええ!?
いやいや、そりゃあもう驚いたわよ。
吃驚よ!
(だって、あたしの肌。綺麗って…!)
エロイ身体とかそそるとか、そーゆー下種な目で見られたことなら数え切れないぐらいにあるけれど、肌が綺麗って…。
それは、また…滅多に無い経験かも?
「どうせなら極力元の状態にまで戻したいんだよ、俺が」
――まあ、一種の腕試しみてえなモンだな、と。
その後続けられた言葉は、どうにも色気とはかけ離れたものだったけど、この子の発したひと言に、迂闊にもあたしの胸は大いに高鳴ってしまったのだった。
「…肌、」
「んあ?」
「綺麗?あたし」
改めて問うたあたしにあの子は一瞬面喰ったように瞬きをして。
だけど我に返ったと同時に、今頃になって慌ててあたしのもろ肌から目を逸らす。
(それがまた何とも可愛くって、あたしの胸は更にキュンと高鳴った)

「…いろ。白いし、肌理だって細かいし。そりゃあ…綺麗なんじゃねえの」

薄っすらと羞恥に色付く翡翠の目元。
目を伏せたままに、くちびるを尖らせ不承不承答えたあの子は。
「つか、手元狂うからいきなり妙なこと聞くんじゃねえ!」
と、すかさずキレた。…から、笑う。
「つか、笑うな!手元が狂うっつッてんだろ!」
チッ!と小さな舌打ちをして、それでも治療は続けるあの子の顔は、結局それから暫く赤いままだった。








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あきゅろす。
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