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4.


さて、花嫁と言っても結婚式を挙げるでなく、さりとてひとつお布団であはんうふんなことをするわけでなく。
そもそも神様は明らかに幼い子どもだったので、そんな気あたしに起きるわけもなく。
ただ一緒にご飯を食べたり遊んだり、ちょっとした話相手になったりと云う。
どちらかと言えば、姉と弟?
…うん、それもすっごい可愛い弟を愛でてる気分だ。
(っはー!弟サイコー!)
妹なんか、生意気なだけでぜんっぜん可愛くないもんねーだっ!
とは云え、そこは森の中。
テレビはない。
ゲームもない。
漫画だってスマホだってない。
そもそも電気もないから、夜は暗く、朝は早い。
ただゆっくりと時間だけが流れてゆく。
そんな毎日を、とーしろーと乱菊さんと、あたしの三人で過ごす日々。
あ、因みに最初は一応敬意を篭めて「神様」「神様」呼んでたんだけど、「お前は俺の花嫁なんだから、別に名前で呼べばいい」って神様が言うから、今は遠慮なく『とーしろー』呼びさせて貰ってまーす。
乱菊さん的にはそれがちょっと面白くないようなんだけど、一応あたし、これでもあのひとのお嫁さんなんで。
嫁特権てヤツですかね。…ええ、なにか?
さて、話は逸れたがとーしろーの言った通り、とーしろーの身の回りの世話を焼くのは専らこの乱菊さんだったりする。
三人で住むには些か大き過ぎる、古いお屋敷を日々掃除して、ピカピカに磨く。
磨き過ぎて、時々とーしろーもあたしも、時に乱菊さんまでもがすっ転んでいる。
それでとーしろーに怒られる。
なのに懲りないあのひとは、まあまあいいじゃないですかーと笑って往なす。
そのまた翌日もピカピカに廊下を磨き上げるのだ。
それからご飯の用意もあのひとだ。
…うん。作っておいてもらって何だけど、正直味の方は…。まあ、お察しあれ。
けれども物心ついた頃から乱菊さんの作るものを食べていたと云うとーしろーは、あんまりわかってないみたい。
こんなもんだろ?って感じで、不味い…とか思ったこともないみたいだ。
うーん、でもなあこればっかりは正直慣れない。
ママの料理がほんの少しだけ恋しくもなる。
あとは、洗濯。繕い物。
だけど手先が不器用なのか、繕い物の縫い目はいつも、軽く引くぐらいにはガタガタだった。
言っちゃなんだけど、これじゃあたしがやった方がよっぽどマシだよ、乱菊さん…。
やっぱり美人は家事が苦手なのかな?
おかげで傍で見ているとーしろーも、どこかはらはらしていて「見ちゃいらんねえ」ってごちている。
「いたあっ!」
針で指刺す乱菊さんに、あちゃーとばかりにとうとう呆れ顔だ。
…だから、しょうがない。
「いいよ、乱菊さん。それ、あたしがやるから貸して」
血がとーしろーの服に付いちゃう、と。
半ば強引に奪い取り、やれやれとばかりに縫い目を解く。
また新たにほつれを繕う。
――別に家庭科の成績はそこまで良くはなかったものの、並縫いぐらいならまあ、何とか。
ちくちくと縫って見せれば、「あら、すごい」と。
乱菊さんが感嘆の声を上げるから、何だかちょっぴり鼻高々だ。
「ほんとだな。――おい、松本。お前もちったあこいつを見習え」
やーだ、とーしろーまで何言ってんのよー。
うん、ほらもっと褒めて褒めてー。
ふふんと得意げに針を進めていたら、
「それじゃあついでにこれもお願い」
にっこり笑った乱菊さんが、どっさり繕い物の山をこっちに寄越したから、これにはさすがに言葉を失くした。
(そうだ、このひと小姑だった。と云うよりむしろ姑だった!)









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