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2.


遥か遠い、北の国の更に奥深く。
黒バラと氷に閉ざされた魔の森を目指し仲間と共に旅に出た俺は、道中を魔女の使い魔に邪魔されながらも、ふた月余りを掛けて今こうして、やっと大国の魔女と呼ばれる女と相見えた。
こうして剣を交えるに至ったのだが。
――よもやあの松本が、悪名高き『大国の魔女』だったとは…。
正直戸惑わなかった筈が無い。
夢か、幻か。
はたまた魔女の幻術か。
疑いもしたが、女は言った。
「久しぶりね、冬獅郎」と。
変わらぬ頬笑みで。
変わらぬ顔で。
あの時俺を導いた、手を差し伸べてくれた恩人が、姫を呪った張本人であることを至極あっさりと認めたのだった。
「お前…何であんなことをした!?今すぐに呪いを解け!!」
「えー、いやあよう。せっかく半分まで染まったのよ?どうせだったら乙女の血に染まる――真っ赤に滴り落ちる血のバラを、髪に飾ってみたいじゃない?」
きっとこの金色の髪に良く映える筈だわ、と。
わらう女は狂っていた。

魔女は気まぐれ。
高慢にして傲慢。
血と争いごとを何よりも好み、時に権力者たちに手を貸して、気の向くままに世界を混乱の淵に突き落とす。
自らの欲望の為だけに生き永らえる。

――まさしく魔女、だ。
「てめえっ…!!」
させるか、と。
叫んで手にした剣を振り被る。
「蒼天に座せ、氷輪丸!」
解号を口にするが早いか、魔女の城の上、立ち込める暗雲。
雲の流れが異様なまでに早くなる。
「あら、やだ。昔はちっとも言うことを聞かないって癇癪起こしてたのに、今じゃすっかり屈服させてんのねえ」
すごいじゃない!と。
まるで、あの頃のように。
共に旅をしていた嘗てのように、朗らかに笑う。
「あんた凄いのね、冬獅郎!」
寸分違わぬ笑顔で俺を褒め称える。
「っっやめろ!俺はもうあの頃のガキじゃねえんだ!!」
ギとねめつけて斬り掛かるも、
「あら、恐い」
おどけながらも手にした剣で、軽々と受け留め薙ぎ払われる。
剣と剣とがぶつかり合う、甲高い残響だけが耳を衝く。
あろうことか、女は口元に余裕の笑みすら浮かべていた。
「何言ってんのよ、あんたなんてまだまだガキ・よ」
あたしの足元にも及ばないわ、と。
笑ってかざす腕。
「赤火砲!」
「ぐっ!!」
気付けば身体は強かに、古城の壁へと打ちつけられていた。










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