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失う恋に映ゆ 1


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魔女は気まぐれ。
高慢にして傲慢。
その強大な魔力と魅了の力を以ってして、時に権力者達を思いのままに操り、意のままに世界を混沌の淵に陥れる。
時の権力者達にしてみれば、魔女の『力』を利用するつもりで近付いた筈が、気付けば自身が利用されていた…なんてこともしばしばで。
魔女の気まぐれにより滅びた国家や権力者達は数知れず。
その最たるが、稀代の悪女――大国の魔女と呼ばれた松本乱菊であったのだ。
そんな女が次にその魔の手を伸ばしたのが、俺が仕える王国の末姫だった。
尤も、何ゆえ魔女が姫に目を付けたのかは知れない。
――何しろ、魔女は酷く気まぐれらしいからな。
ただ、末の姫が生まれた際、古くからの習わしに則り国に滞在する数多の魔女や魔道士達を招いての祝いの席に、もしかしたら『大国の魔女』ただ一人を招き忘れてしまったのかもしれない、と。
のちに青ざめた顔で王妃が言った。
それ以外に恨みを買うような、思い当たる節がないのだとも…。
とは云え、大国の魔女は気ままで、気まぐれ。
住処は何処とも知れないが為に、よもや末姫が誕生した際、国に滞在していたか否かも知られていなかったのだ。
だが、そんな相手をどう招けと云うのだ。
…要するに、ただの嫌がらせ。
態良く姫が狙われたと云うことだろう。
(よもやそんな女だとは思わなかった)
姫の十六の誕生日を祝う、国を挙げての祝賀会のその最中、何者かが姫に近付きそっと手渡した黒いバラ。
そのバラの匂いを姫が嗅いだと同時に、姫は意識を失った。
ばかりかバラは茎を伸ばして姫の首へとぐるぐる巻き付き、その白い肌に棘を突き刺した。
半年経った今も枯れることも無ければ、姫から離れることもない。
無論、姫の意識が戻ることも無いままだ。
――すぐ、傍で。
間近でお護りしていたのにも関わらず。
近衛騎士として取り立てて貰い、今日までずっと…常にお傍でお護りしてきた姫を、すぐ目の前で。
崩れゆく身体を支えることすら出来なかった己の無力を嘆く。
(何が竜神の加護だ。魔石を宿した緑眼だ)
護るべき人を護れずにいたら何の意味もないことを、嫌と云うほどには思い知らされた。
不吉な黒バラは姫の血を吸い、枯れること無く見事に咲き誇る。
その、花びらの色を。
黒から鮮やかな深紅へと、今尚少しずつ染め上げてゆく。
このままではいずれ死に至るのは明白で、だが打つ手はまるで無かった。――その時のことだ。
「これは『大国の魔女』の仕業でしょうね」
噂を聞き付け姫を見舞った、遠く…西の国に住まう『白き魔女』と呼ばれる卯ノ花が、王にそう告げたのは。
「黒バラを使役するのは、世界広しと言えども大国の魔女ただ御一人の筈」
その進言を裏付けるように、今、大国の魔女が住処にしていると云う、大陸の最北に位置する北の国の森深くには、びっしりと黒バラが咲き乱れていると云うではないか。
それゆえ、王国最強と呼ばれる俺達近衛騎士隊に任が下った。
曰く、魔女を捕えて姫の呪いを解く術を吐かせよ、と。
「日番谷、そなたは幼き頃に竜神の加護を授かり、強大な氷竜の力を封印した剣を得た。聞けば、それだけでなく魔石までをもその目に宿していると云うではないか。――ならば、あの魔女に勝てるとしたら、そなたを置いて他にはおるまい」
姫の為にその命を賭けよとの命令に、一も二も無く是と承服したのは言うまでも無い。










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