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神様の死んだ日



護るべく大事な女を害為す相手は、嘗て俺に「剣を取れ」と、騎士の道を示した女であった。
――否、ただの女だと思っていた。
月の光を受けて、夜目にもキラキラと輝く、稲穂のような金色の髪。
肌も露わな黒のドレスに身を包み、肉感的なくちびるに、血色の赤い紅をひく。
てらてらとぬめるそのくちびるを、弓なりに歪めて嗤う極上の女。
その、女こそが。
『稀代の魔女』とも『大国の魔女』とも呼ばれる大魔法使い――松本乱菊であると俺が知ったのは。
こうして剣を交えて、相見えてのことだった。
幼い頃に目にしたままの、あの頃と何ら変わらぬ美貌と。
今初めて目にする、豊満な胸元も露な黒衣のドレス。
手には古い青銅の杖を持ち、「ようこそ、坊や」と妖艶な声で俺を嘲笑う。
「あらあんた、随分おっきくなったのねえ」
昔会った時は、こーんな小っちゃくて、膝小僧抱えてぐずぐず泣いてる弱虫のぼうやだったのに!…って。黙れ、黙れ!!
「お前…お前本当に、あの時の…」
「ええ、そうよ。その奇異な銀髪と、魔力の高い魔石を宿した緑眼を理由に、生まれ育った村を追われて森をひとり彷徨っていた、哀れなあんたに剣を授けた――竜神の加護を与えて王都を目指せと諭した。坊やの淡い初恋の相手は、なーんとあたしだったの!」
「てめ…!」
誰が淡い初恋だ、と。
煽るような女の軽口に、カッと頭に血が上る。
そんな俺の反応に、赤いくちびるを更に弓なりに曲げて、然も愉快気に。声も高らかに女がわらう。
「あら、残念。王都までの道のりを共にした上に、剣を教えて魔力の扱い方までご丁寧にも教えてあげた、それこそ一緒にお風呂も入った仲だったのに。残念だわ〜」
寂しいこと言ってくれるわね、坊や…って。
まるで残念とも思わないような口振りで、尚も俺を焚き付ける。
手にした杖を振りかぶり、
「唸れ、灰猫!」
女が解号を叫ぶと同時に手の中の杖は、たちまちの内に一振りの剣へと姿を変える。


「さあて、お手並み拝見。お相手願えるかしらね、坊や?」
「誰が坊やだ、…魔女め」


まったく以って忌々しいことこの上ない。











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