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9.


「あっ、あたし…お妾になんてなるつもりはないですからねっ!」
そんな甘いばかりのくちづけの合間、えぐえぐと嗚咽混じりに詰ってやれば、わーってるってと溜息を吐く。
「俺だって。お前以外の女と祝言挙げる気なんざさらさらねえよ」
つらっとばかりに良くも言う。
「そんな調子いいこと言って…わっかいお嫁さん貰うくせにっ」
口先ばっかりはもうごめんだわ。
そんな悔しさに、背を向ける。
ついとそっぽを向いたところで、包み込むようにそっと背中から抱き締められる。
「――貰わねえよ」
「…へ?」
苦笑混じりに言うが早いか襟足を、跡が残るほどきつく吸い上げられて、戦慄く身体。
鼻先をぎゅうと押し当てられる。
「安心しろ。俺の縁談なら、時期を待たずにどうせ破談になる」
嘯く声に、ハッと背後を振り仰いだ先、――あのひとは。
あたしをその腕に抱き込んだまま、喉を鳴らして嗤っていた。
意地悪そうに、くと歪められた口元。
けれど、目は。
あたしを見つめるその目はやっぱり、どうしようもなく優しくて。
あたしのことが愛しいと、言わんばかりだったから。
つくづくズルイひとだとおもう。
(これじゃあどっちが年上かわかったもんじゃない)
もっと綺麗に『終わり』を演じるつもりだったのに。
責めることなく身を引いて、すべて思い出にして葬り去る。
あっさりと別の男の元へと嫁いで、全部なかったことにする・筈だった――それなのに。
そんな執着を見せられてしまったら。
この期に及んでこんなにも、優しくされてしまったら。
諦めることなんて出来やしない。
…傍に居たい。
「お前以外の女と祝言を挙げる気なんざさらさらねえよ」
そんなあなたの言葉を信じたくなる。
「わっ、若旦那…」
「ああ、ンな顔すんな。話なんざ後回しにして、貪り喰らいたくなるだろが」
月の障りで手も出せねえのに、酷い女だとくつくつ笑う。
薄いくちびるが、何度もあたしの頬に。額にと、押し当てられる。
眦に溜まる涙を、きゅと吸い上げる。
そうして「しょっぺえ」と笑うのだから、すっかりとささくれてしまった気持ちがゆっくりとでも、凪いでゆかない筈がないのだ。
やがて大人しくその腕の中に身を委ねたあたしにあのひとは、事の顛末を語って聞かせてくれたのだけど。
――曰く。

「男がいんだよ。俺にとってのお前みてえな。で、その女だが腹ぼてときてる」

…だ、そうで。
これにはさすがに目を丸くして驚かないではいられなかった。
(腹ぼて、って!)










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