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8.



「どうしても何もあるかってんだ。頑として縁談に応じようとしない俺に、焦れた親父がお前を追い出しにかかるのなんざ目に見えている」

お前に嫁入り先を宛がったのは親父だろう?との断じるようなその問い掛けに、逃げるようにして逸らした視線。
違うと嘘を吐いたところで、すぐにも見破られるのは火を見るよりも明らかだった。
だって、きっとすべて知っている。
知ったその上でこのひとは、今こうしてあたしを詰問してるのだから。
でも、だとしたら随分な話だ。
こんな風に詰られて、あまつさえ無体を働かれる。
旦那様の言いなりに、あたしがお嫁に行くのは、ぜんぶあなたのせいなのに…!
「っしょうがないでしょ、若旦那は奥様を迎えられる身で、このままお傍に仕えたところでいずれ疎まれるのは目に見えている。況してや、『あれが祝言を挙げるに当たって、うちとしても揉めごとは少ない方がいいから、お前にはいい嫁ぎ先を紹介しよう』なんて旦那様直々に引導を渡されて、ここを追い出されたら行く当てもない、嫁ぐ当てもないあたしがお断り出来るわけがないじゃないですか!」
泣くまい、と。
噛み締めたくちびるに、触れる指先。
「だからってなあ、ふた回りも年の離れたジジイの後添えなんかに大人しく収まるバカがあるか!」
あほ!って、…ひどい。
「うっ、うっさい!元はと云えば最初の縁談邪魔した若旦那がいけないんでしょが!おかげであたし、今更嫁ぎ先も見つからないし、なのに若旦那はわっかいお嫁さん貰うって云うし、…なによう。みーんな若旦那のせいじゃない!あたしのこと、好きだって言ったくせに。よっ…嫁にしてやるって言ったくせに!そんなのやっぱり全部嘘だったんじゃない。ただの寝物語だったんじゃない!わーん、あたしだって好きで嫁ぐんじゃあないんですからねー!!」
だってだってそのひとってば、義理の娘に息子が六人もいるのよ!
それも年だって殆どあたしと変わらないような、いずれも大きな子どもばかりだ。
そんな男の元に嫁ぐよりも他なくなった自分自身の境遇が、つくづく恨めしくなってぼろぼろと溢れ出てしまった大粒の涙。
年甲斐もなくわんわんと声を上げて泣くあたしを、呆気に取られたように見下ろして。
「――あほ」
とどめのように、もう一度。
気抜けた声で口にしてから、濡れたあたしの眦にくちびるを寄せる。
泣き止まぬあたしのすっかり乱れてしまった胸元を、軽く正してからひょいとその腕に抱き上げられた。
「わっ、若だ…」
「俺ァ嘘なんざ言ってねえ」
ぶっすりと言って寝所に続く襖を、行儀悪くもスパンと足で開け放つ。
そうして布団にやさしく横たえられて、もう一度。
息が上がるほど、あまく…やさしく。
深くくちづけられたのだった。











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あきゅろす。
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