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5.


「それは、つまり…奥様をお迎えしても、このままあたしを慰み者として手元に置くと云うことですか?」
あたしさえ望めば奥様を裏切ることになっても構わないと云うことですか、と。
感情を押し殺し、やっとのことで聞き返したあたしの言葉は、果たしてこのひとの耳まで届いていたのだろうか。
(わからない。わからない)
けれども否定もされない。
…尤も、肯定するような素振りもないが。
果たして何を考えての問い掛けなのかはわからないけれど、それでも多少なりともあたしのことを、惜しんではくれていると云うことだろう。
あたしが「はい」と望めば、このまま囲ってやってもいいと思うほどには、あたしのことを想ってくれている。
気に掛けてくれているのだ。
考えてくれているのだと思うは容易い。
流されるまま妾となって、このまま身を委ねてしまうことも。
――でも。
所詮あたしは六つも年嵩の女中であって、奥様となる方に勝るものなど何ひとつとしてない。
この先飽きて捨てられる日を、ただ諾々と待つなんてこと、出来ようもないししたくもないから。
「お断りします」
にっこり笑って告げていた。
「即答だな」
「あったり前です」
ちょっと鼻白んだ、みたいな顔をしたのがどこか小気味良い。
(てゆーか、何?よもや大人しく囲われる女とでも思っていたのかしら)
それとも、そんなことを望む女と思われていたとあらば心外だ。
「残念ながら、囲い者になるなんてそんな扱い、あたしはまっぴら御免ですー。てゆーか、若旦那にはがっかりだわ。これから年若い奥様を迎えるってのに、あたしまで…って、幻滅しました。てゆーかこれから奥様を迎えられる若旦那に、そんなことを望む女と思われていたのが心外です。そんなひどいひとだとは思いませんでした!」
だからずえーーったいにお断り!って、やけっぱちに口にしてからぷいとそっぽを向いた。
この際だから、言いたいことを言ってやった。
なのにどうしたことか、暫く経っても若旦那からの反応は梨の礫だったので。
(おやあ?)
どう云うことかと、ちらりと視線を向けた先。
「?」
何故かニヤニヤと口元を緩める若旦那と目が合う。
「そうか、嫌か」
得心したように口にして、
「ま、お前のこった。そう云うだろうなとは思っちゃいたが」
と、わかったような口を利く。
それにまたムッとしたあたしに然して気に留めた素振りもなく、そうか月の障りじゃ仕方がねえなと今更のようにひとりごちる。
…最後に抱けなくなって残念って意味なのかしら?
よく、わからない。
でもきっともうこれでおしまい。
ほんとのほんとに用無しだろう。
何しろ「返事の予想は付いていた」とのたまったのだ。
改めてあたしに囲われる意思がないとわかった以上、この関係もおしまいだろうと思ってその呆気ない最後に拍子抜けする。
なんとも寂しいような気持ちになったのだけど。









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