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淫猥リキッド 2



勝手知ったる日番谷の部屋。
窓に鍵がかかってないのは先刻承知よ。
(何しろ酔っぱらったその勢いで、一度窓ごと鍵を壊しかけたことがあるのだ、あたしは)
うん、まあね。怒られたわよーそりゃあもう。
もう二度と部屋には来んな!!って。
迫力いっぱいに怒鳴られて、そのままポイと窓から追い出されそうになったわよ。
いやまあそれでも、最終的には許してくれたんだけど。
てゆーか、あたしが身体中擦過傷と打撲傷だらけなのに気が付いて、目をまんまるにしてそれどころじゃないって騒ぎになったんだけど。
早く言え!って、逆に怒鳴られたりもしたんだけど。
結局治療を終える頃には、有耶無耶になってたってだけなんだけど。
それでも日番谷はその日以来、就寝の時も窓に鍵を掛けなくなった。
えー、それっていつでもウェルカムってことなのかしら?と思ったら、全然そんなことはなくって。
「部屋には、ぜってー来るんじゃねえ!」
って、やっぱり念押しするみたく言われたんだけど。
それでも日番谷曰く、とりあえず鍵だけは開けておくことにしたんだそうだ。
無用心ねえ、って呆れたら「お前が大人しく俺の言うこと聞くとも思えねえからだ」って。
ものすっごく厭味たっぷりに言われて、さしものあたしもさすがに返す言葉がなかったんだけど。
…だからまあ、しょうがない。
ここは一応あたしも気遣って。
「ひーつがやくーん、あーそびーましょー」
念の為にと小声でひと声掛けてから、鍵の掛かっていない窓をそっと開けてみた。
そうしてひょいと窓枠を乗り越えて、よいしょとばかりに降り立った先。
部屋の真ん中にある小さな布団の山がもぞりと動いて寝返りを打ったと思ったら、夜目にも目立つ翡翠の瞳がパチリと開いて、その刹那。
小さな からだがガバリと跳ね起きた。

「…ってか、何やってんだ!ここで、テメエ!!」

月明かりの下、翡翠の瞳を極限にまで見開いて、怒鳴ったあの子はだけど慌てて口を閉じると布団を飛び出し窓を閉め、それから詠唱破棄で結界を張った。この部屋の中に。
「わあお、相変わらず凄いわねえ」
感心しきりのあたしをギロリとねめつけて、徐に吐き出す深い溜息。
眉間の皺の深さがその苛立ち度合いを顕著に物語っているなと思ってあたしは苦笑を浮かべる。
「つーか、テメエは…毎度毎度いきなり部屋に現れやがって。ここは男子寮だって何べん言ったらわかんだよ!」
結界を張った安心からか、今度は思いっきり怒鳴りつけられた。
でもまあ、この子がぎゃーぎゃー騒ぐのは割といつものことなので、別段堪えるようなこともない。
「なによう。いーじゃない別に、ちょっとぐらい」
ちゃあんと今日は大人しく入ってきたじゃないようと剥れながらも、その細い首筋に両腕を廻して抱き着けば、日番谷は心底呆れたように溜息を吐いた。
「すっげー酒くせえし、お前」
「あー、さっきまでちょっとしこたま呑んでました」
「ちょっとで、しこたまって…意味わかんねえし」
突っ込みは容赦ないけれど、それでも抱き着くあたしを無理矢理振り払おうとはしない。
それが何だかこそばゆくってツンとくちびるを突き出せば、しょうがねえなあとばかりに寝起きの頭で応えてくれた。くちづけに。
重ねる、くちびる。
冷たく薄いそのくちびるは、あたしのものより明らかに小さく子供のモノ、で。
こんな時、ちょっとばかり背徳感が起きないわけでもないけれど、それでもやっぱり心地良い。
(ああ、上書きされたー!って感じ?)
「つーか、お前。マジで酒くせえし」
息継ぎの合間に詰られて、顰めたその顔にくすりと笑う。
そーゆー顔は、いつも眉間に皺を寄せてばかりの仏頂面が、どことなく年相応にも見えるから愛らしい。
「だから今まで呑んでたって言ったじゃない」
「呑みすぎだ、アホ」
この酔っ払いがと詰りながら、再び交わす。くちづけを。
だけど舌先を絡めた途端、どうやら正気に戻ったらしい日番谷に不意に肩を押し戻された。
「…お前、ところで何しに来たんだよこんな時間に」
そうしてさっきの話を蒸し返された。
それも、さっき以上に苛立つ声で。
むっすりと眉間に寄せた深い皺。
(しまった、やっぱり怒ってましたか)
「怪我した…ってワケでもなさそうだよな。今の今まで呑んでたってぐらいなんだから」
ぶつぶつと独り言のように呟きながら、頭のてっぺんからつま先まで。
じろりと一瞥されて、傷の有無を確かめられる。
「死覇装も…血糊なんざ付いてねえし、とりあえず緊急を要する傷はなさそうだな」
ぺろりと捲った袖の下、腕を眺めて安堵しながらも、反比例するかのように更に日番谷の眉間の皺は深くなる。

「…で?一体全体何の用で、ぜってー来るなっつッた俺ンとこに来やがったよ、この酔っ払い」

ぎゃっふん!
思いっきり据わった目で睨み上げながら問い掛けられては、言葉もない。
(よもや、夜這いに来ましたー!なあんて、冗談でも言えない!)
てゆーか、言える雰囲気じゃない。
たちまち立ち込める剣呑な空気。
うわー、さっきまではものすっごくいい雰囲気だったのにー!
しまった、こんなことならあのまま布団に押し倒して、速攻服でも脱がしちゃえば良かったのか、あたし?!
などと思ったところで、既に後の祭りであることは明白だ。
「俺ァ明日も朝から授業があんだよ、…わかってるよなあ?」
いやもうそれは仰る通りでしょう。
だいたいそれを言ったらあたしも明日は仕事だ。
あのまま部屋に戻っていれば、今頃ぬくぬくお布団で夢でも見てたに違いない。
だが、それでも。
会いたかったのだ、このコドモに。
目下眉間に皺を寄せ、不機嫌にあたしを睨み上げているこのコドモに。
会って抱き締めて欲しかったのだ。
くちづけて、触れて。
今日一日の終わりに起きた嫌な記憶を、この子に書き換えて欲しいと思ったのだ。







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あきゅろす。
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