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3.


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「なんだ、今日は随分と覇気がねえな」
「あら、そう見えます?」

乞われてお湯呑みに茶を淹れる手を止め、わざとらしくも小首を傾げて見せる。
「もしかしたら若旦那のせいで寝不足なのかもしれないわあ」
あーやだやだと無理やりにでも笑いに変えてしまえば、「バッカヤロ」と釣られたようにあのひとまでもが笑みを零す。
それから手にした本を文机に戻すと、徐にあたしへと伸ばされた腕。
「お茶、淹れてる途中なんですけれど?」
「後でいい」
言うが早いか、肩を抱かれる。
抱き寄せられて、塞がれたくちびる。
最初はぎこちなかった口吸いも、今ではすっかり手慣れたもので。
吐息ひとつであたしを陥落させるまでになった。
すっかり女の扱いに長けたものだと、舌を巻いてしまうぐらいには…。
「ああ、やべえ。お前を可愛がったらさすがに喉が渇いた」
「ハイハイ、ちょっと待ってて下さいな」
少し冷めてしまったお茶を、けれどあのひとはちょうど飲み頃だと笑ってひと息で呷って口元を拭う。
まだ少し幼さの残る横顔。
相反するように、背はまた伸びた。
まだまだ子どもだと思ってたのに、と。
存外年寄り臭い言葉が脳裏を過ぎったのは、このひとがこれから妻を迎える身だからだろうか。
まだ見ぬ若奥様の姿を思い描いては、ツキンと痛んでしまった胸。
…いけない、いけない。
今日こそちゃんと切り出さなくちゃ。
七緒に釘を刺されてから、既に十日余りが経ってしまっている。
だけれども、切り出そうにもあたしは勇気が出ない。
況してや若旦那は、仕事に付き合いにと忙しくしていて、なかなかに機会が作れない。
――それに。
乱菊、と。
あまく名を呼ばれ、肩を抱かれてしまったらもう、何も言えなくなってしまうのだ。
この二年、繰り返された手順で身体を暴かれてしまえば、何も考えられなくなってしまったから。
けれどもいつまでもこのままでいい筈がない。
だから今日は渡りに船だ。
再び伸ばされた腕をやんわり制したのは、
「今朝、月のものが来ましたから」
正当な理由付けがあったから。










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