[携帯モード] [URL送信]
2.


*
*


お茶がいいか、コーヒーにするか。
それともココアでも作る?との問い掛けに、迷うことなく「お茶」と答えた冬獅郎に、あっついお茶を注いでズイと差し出す湯呑み。
もう随分と部屋の中は温まっていて、さっき押し付けたお布団も既にベッドに戻した後で。
けれどあの子はひと口、熱々のお茶を啜って「ンマイ」と唸ったその後で、然も当然のようにあたしを抱き寄せる。
と云うより抱き着いてくるのだから、…なんだかなあ。
「ちょっと、冬獅郎。あんた、なに頬擦りしてんのよひとの胸にっ」
暗に「やめい!」と制するも、聞いているんだかいないんだか。
まるでやめる素振りはない。
だけど無理やり押し退けることも出来ないでいるのだから、あたしも大概この子に甘い。
「――で?風邪はもうほんとにいいの?」
「おー。くしゃみは花粉のせいだからな」
そう言って、ニットの裾から手を差し入れる。
いやいや、だから何をやっているのよあんたは。
「うあー、やべ。久々の生おっぱい!」
あーもう、騒ぐな。はしゃぐな。
恥ずかしいヤツめ!
ついでに勝手にブラを外すんじゃない!
っとに、十日も放って置いてくれちゃったくせに、会っていきなり盛るとか。
ほんと図々しいって思わないでもないんだけど。
どうやらこの子、看病していたお嬢様の風邪を貰ってしまって、ずっと寝込んでいたらしいのだ。
否、お嬢様の方は案外軽い症状だったらしくて、それこそ一日余りですっかり熱も引いたそうなんだけど。
入れ違いに、今度はこの子がぶっ倒れた。
それでも熱は何とか三日で下がったものの、どうやら薬を貰いに赴いた先の病院で、運悪くインフルエンザに罹って来たらしく、間を置かずして発症。
そのまま隔離されていたと云う。
今日になってやっと床上げしたはいいものの、タイミング悪しく今日は花粉の飛散量がとんでもなかったようで、くしゃみと涙が止まらない。
更には今日までずっと寝込んでたせいで、携帯の充電もとうに切れていて。
今更ながらにあたしに連絡入れようにも入れられないことに途方に暮れて。
結局充電を待つより会いに行った方が早いと結論付けて、万が一にも外に出て風邪がぶり返さないようにと厚着をしてからこっそりお屋敷を抜け出して。
あたしの部屋まで会いに来たと云うのだから、そうそう邪険にも出来なかったのだ。
(まあ、話聞く限りじゃこの子も踏んだり蹴ったりだったわけだし?)
しょうがないかなーとか思って流されちゃうからだめなのよねえ。
「そしたら部屋にいねえだろ、お前。連絡するにも携帯は置いて来てたし、しょうがねえからコンビニでお前帰って来んのずっと待ってた」
「…そんな如何にも病人面で?」
「しょうがねえだろ。つか、インフルなら完治済みだ」
や、それはそうかもしれないけども。
でもねえ、この様子じゃあ「病人はよ帰れ!」ぐらいのことを、店員さんには思われていたんじゃなかろうか。










[*前へ][次へ#]

10/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!