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ジュリエットが飛べない理由 1


※『華を足しても枯れております』のその後とか。


「わあ、もう。七緒ってば、なんっっであんなにお説教が長いのかしら!」


目下付き合っているあたしの彼氏が七つ年下の高校生と知った七緒は、およそそれまでの態度を一変。
一転、お説教モードに切り替わったのだから堪らない。
曰く、子ども相手に何をやっているんです、あなたは。
犯罪者にでもなりたいんですか?
いいから今すぐ別れなさい!
とにかく冷静になって、距離を置きなさい!!
膝突き合わせて滾々と常識を説く七緒を前に、すっかり酔いは醒めてしまっていた。
(なによう、最後に一度真正面からぶつかってみろ!…なんて、さっきは言ってた癖に。とーしろーが高校生ってわかった途端、手のひら返すみたくやめとけ!って)
上げて落とすってあんまりよねーと思って吐き出す息。
それでも七緒がそう言い出すのも無理ないこととも思ってたから、実際のところ言うほど不満はなかったりする。
だから「うんうん、そうよね」「わかった、ごめん」「そうするわ」って、やり過ごしてから店を出た。
やっぱり七緒は相当に酔ってるみたいだったから(ま、そうでなくちゃ普段クールなあの子があそこまでヒートアップする筈もない)、途中トイレにと席を立った際、京楽部長にこっそり連絡を取っておいたのだ。
それから三十分と経たない内にお迎えに来た京楽部長に七緒を任せて――車で来てるからついでに送っていくよとの申し出を、あたしが丁重にお断りしたのは言うまでもない。ええ、だってやあよ。車に乗ってまでお説教とか!――ひとりとぼとぼとアパートまでの家路を辿る。
ああもう、あたしがひとりぼっちでこんな夜道を歩いていると云うのに、連絡の一本も寄越さないで。
いったいなーにをやってんのかしらね、今頃あの子は。
そう思っては、溜息をひとつ、吐き出したその時のことだ。
「遅かったな!」
「ひいっ!?」
不意に掛けられた声にびくりと慄く。
(え?てゆーか、今のってば…)
「とっ、冬獅郎!?」
慌てて声の方を振り向けば、通り過ぎたばかりのローソンの駐車場から、コンビニの袋をがさがさ言わせて冬獅郎がちょうど駆けて来たところだった。
「わあ…」
うん、驚いた。
驚いたなんてもんじゃないぐらいには驚いていた。
ここにあの子が居たこともだけど、それより何より…。
「ちょ、どどどーしたのよあんた!」
だってマスク姿だし。
普段薄着のあんたが、珍しくもちょっと着膨れてるし。
何よりなんだかものすっごーく調子悪そうに見えるんですけども!
ひと目で体調崩してるでしょ!?ってのが見て取れて、仰天したと云うにも等しい。
「や、一応熱は下がったんだけどな…」
気まずげに言ったその舌の根も乾かぬ内に、へっくち!と。
何ともまあ可愛らしいくしゃみをかましてくれるものだから、慌てて腕を引きアパートに向かい、部屋へと押し込んだのは言うまでもない。
部屋に入って電気を付けて、エアコンを入れて。
ちょっと待っててと言い置いてから湯を沸かす。
その間も二度ほど小さなくしゃみをしたことから、部屋があったまるまで被ってなさいとベッドの布団を押し付けたところで、布団ごと腕を引かれて倒れ込む。
冬獅郎の腕の中に。
そうしてお布団ごとぎゅって抱き締められて、
「すげえ…会いたかった」
いきなり押し掛けて来てごめん――囁かれたひと言に、すっかり肩の力は抜け落ちていたのだった。













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