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2.


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「冬獅郎…あんた、付き合ってる子がいるの?」

若干強張った顔で突っ込まれて、胸中チッと舌を打つ。
(っとに、今日ばかりは恨むぞ松本)
次会った時はぜってー泣かす。
電気消さねえでやってやる!
口には出さず、手前勝手に心に誓う。
だって、なあ?
(とりあえず、何らかの仕置きは必要だろう)
「あー…、まあ…一応?」
そんな上の空に答えたことが災いした。
思いっきり虚を衝かれた。
「っそれ、まさかと思うけど雛森のお嬢さんじゃないわよね!?」
…って、ちょっと待て。
何だって!?
「っはああああ!?」
今にも掴み掛からん勢いと、形相で以って詰め寄られ、予想外の事態に混乱を来たす。
ちょちょ…待て、母さん!
なんっっでそこに雛森が出た!?
「違げえし!」
最早全然違げえし!
ありえねえし!!
「つーか、それだけはない!断じてない!!」
折に触れ松本からもそのことで、あらぬ疑いの目を向けられもしたのだが、どう考えてもそれだけはないと断言出来る。
まあ、ぶっちゃけガキの頃は一番身近に居た異性でもあったし、淡い初恋の相手――でないと言わないこともない。
…けど。
雛森と俺とでは、そもそも住む世界がまるで違う。
家が資産家でもあり、やさしい両親と温もりに育まれてきた雛森と。
母さんと俺に事あるごとに暴力を振るう男の元から命からがら逃げ出して来た、やっとの思いで安住の地を得た俺とでは、そもそもからして『世界』が違い過ぎた。
あの頃抱いた淡い想いが、単なる憧れだったにしろ、恋情にしろ。
あいつの居る場所は、あの頃俺には余りにも眩し過ぎたのだ。
だからすぐにも距離を悟った。
俺なんぞが触れてはならない、むしろ『守るべき存在』であるとの認識をした。
気付けばそう云った対象からは、最も遠い存在となっていたのだった。
ゆえに、ありえない。
それだけはない。
「もっとすっげえ…イイ女だよ」









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あきゅろす。
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