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百年の猛毒 1


※『石英のひび』の後日談にて、英雄の独り言とか。



「本当に良かったのですか?」

果たして何度目になるのだろう。
しつこい程に重ねて俺へと問うたのは、『白き魔女』と呼ばれる女だ。
「何を今更」
だから俺も、幾度目かの嘆息を零す。
「いいも悪いも何も、あいつの命を救うにゃ他に手立てはねえんだろが」
――ゆえに、仕方ない。
気は進まなくとも『狂魔道士』の烙印を押された男に松本を託すよりも他は無かった。
『魔女』としての松本が持つ、ヒトより遥かに長い寿命を対価と代償にして…。
それほどまでに俺が与えた松本の傷は、深く…致命的なものだったのだ。
だが、俺からすれば降って湧いたような僥倖に他ならない。
例え竜神の加護を得ようとも、所詮『人間』の器でしかない俺は、いずれ人並みに年老いて、来るべき時が来れば人並みに死んでゆくことしか出来ない。
魔女である松本とは、到底同じ『時』を有することは出来なかったのだ。
だが松本はこの先その寿命を代償に、『ヒト』として生きることとなる。
これからは俺と時を共にするのだ。
(これを僥倖と呼ばず、何と呼ぶ?)
ただ、惜しむらくは寿命と共に、『記憶』までをも失うことだろうか…。
極僅かな魔力のみを残して魔女の力を失う女に、『大国の魔女』として生きた記憶は余りにも重い。
況してや今回のことで、その悪名を更に大陸中へと轟かせるようなことにもなった。
これまで以上に生き辛くなるのは必死であった。
――ならばいっそ松本自身が望んだように、『大国の魔女』を殺すよりも他は無い。
幸いにして松本の『顔』を知る者は、同胞を除けばほんのひと握りの人間に限られる。
仮に別の首級(しるし)を稀代の魔女と偽ったところで、誰に知られることもない。
それに姫の眠りはそう遠からず――バラが赤く染まり切り、枯れさえすれば覚めるのだ。
そのタイミングを見計らい、魔女の首級として差し出せば、疑う者などある筈がない。
そこまで頼み込んだ俺に、諦念さながら力を貸してくれたのが、他でもない――松本の同胞でもある『白き魔女』と云うわけだ。
「仕方ありませんね。あの方は、『異端』である貴方を殊のほか気に入ってらしたようですから」
そう言って、狂魔道士の力を借りることを提案したのも白き魔女――こと、卯ノ花だった。
「それに、元はと云えばあなたの『加護』は松本さんが与えたもの。ならば共に在り、共に生きるのが本来あるべき『形』なのでしょう」
尤も、そこまで考えてあの方が、あなたに自身の加護を分け与えたのかまではわかりませんが…。
そんな諦めにも似たぼやきを零して、涅と共に記憶の改ざんを施した卯ノ花は、どうやら存外松本のことを気に入っていたらしい。
何しろ改ざんした松本の記憶の中に、元は自身の側仕えの見習い魔女であったと云う設定を、俺の与り知らないところで勝手に捩じ込んでいやがったのだから。
ゆえに松本が俺の伴侶となったその後も、可愛がっていた愛弟子の近況を気にかける『元・主(あるじ)』の振りをして、時折松本の元を訪ねて来ているらしい。











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