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7.


「誰が何と言おうとも、俺が望む女はお前だけだ」
朦朧とする意識の中、日番谷がそう言ってわらうから。
だから今ではお姫様との噂話も、所詮はただの『噂』でしかないのだと、気にするようなこともなくなってしまった。
それにそんな噂の数々も、あたしと日番谷、ふたり揃って夫婦として社交の場へと顔を出すようになる内に、少しずつ鳴りを潜めていったから。
何しろ日番谷ときたらいつだって、片時もあたしの傍を離れようとはしないので。


「お前はほっとくとすぐ飲み過ぎるし酔っ払うし、挙句他の男を呼び寄せるからな」
「なっ…、しっつれーねえ!あたし、そんなにお酒に弱くないわよ!」
「って、キレるとこそこかよ!?」
「だいたい男が寄って来るのはあたしのせいじゃないもの。どうせアレでしょ、大方生きた英雄であるところのあんたと懇意になりたいって下心満載のヤツらでしょ!」
「…本気でそう思ってんのか、アホだろてめえ!お前に声掛けて来るどいつもこいつも、別の意味で下心満載に決まってんだろが!!」
「っはあああああ!?あ、あほって何よ、あほって!!」
「そーゆー男の下心に鈍いところがあほだってんだ。お前なんか自分がどんだけ男の劣情煽る女か理解してねえだろ。つーか、露出し過ぎなんだよてめえは。項見せんな、肩出すな、…減る!!」
「へっ…減るって何よ、減るって!?てゆーか、夜会で髪結うのぐらい当然でしょが!」
「うっせ。夜会があるから痕付けんなとか、俺の日々の楽しみが減るんだよ。ついでに何か知らねえけど、…減る!!」
「いみわっかんない!てゆーかあんたは、毎晩毎晩痕残し過ぎ!かっ…隠すの大変なんだからね!!」
「ハッ、俺のもんに痕付けて何が悪い。褒章に託けて、やっと手に入れた女なんだぞ。他の男になんざ見せたかねえし、近付けたかねえ。面白くねえに決まってんだろ!」


――そんなバカップルさながらの痴話喧嘩なんぞをたびたび夜会の片隅繰り広げていたものだから、すっかり噂は広まり、今となっては貴族の間で『悲劇の恋人たち』のことが話題に上がることは皆無となった。
況してやお姫様が帝国へと嫁いで行ってのち、程なくあたしに子が出来たと知れるや否や、未だ国中に広まっていた噂は鎮静の一途を辿ったのだった。
こうして日々は穏やかに流れ、少しずつふくらみゆく自身の腹を眺めて思う。
幸せではある。
…でも、だけど。
今尚時折あたしの向こうに、他の『誰か』を見てると思しきあの子の姿を目にするたびに、心の奥底ふつりふつりと湧き上がる疑問。
(ねえ、あんたが本当に想う相手は…誰?)








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